第183期 #11

未来ちゃんと僕

『現地メディアによると犯人は小説のようなものを使って建物に侵入したもようです。警察は、小説のようなものによる注意を呼びかけています』
『続いてニュースです。昨晩、●●市で発生した通り魔事件の詳細が分かりました。犯人は背後からA子さんを襲い、持っていた小説のようなものでA子さんを切り付けました。犯人は小説のようなもので、身長170センチの痩せ形、紺色のパーカーに黒っぽい目出し帽をかぶっており、●●方面へ逃走したもようです。尚、A子さんの命に別状はないとのことです』

CM《洗練されたフォルム、小説のようなものが織りなすメロディ、あなたに、生まれ変わった、小説のようなものを。お求めはお近くの小説のようなもので》

◆未来ちゃん
「聞きたいことはそんなことじゃないでしょ。過去の世界で万馬券を買って億万長者になるってことが可能かってことでしょ」

◆僕
「見てよ。未来を知らないから、みんなハズレ券ばっか買ってんじゃん。僕が総取りだってことだよ」

◆未来ちゃん
「ひとつ質問ね、未来は変えられないものだと思うの?」

◆僕
「決められているなんて思いたくないに一票。未来は変えられるもの。変わらなくちゃ、希望も持てないじゃんか」

◆未来ちゃん
「だったら、億万長者になる未来も変えられるってこと?」

◆僕
「いや、だって、これは過去のことだから関係ないでしょ」

CM《休みたくても休めない、そんなときにはこの一本。こじらす前に飲む。頭痛、発熱に小説のようなもの。用法、容量を守って服用ください》

◆未来ちゃん
「でも、あなたは、過去に戻って未来の馬券を買ったのよ。それって未来の馬券を買ってるってことなんじゃないの?」

◆僕
「ここは小説だから好きなように結末を作ることが可能なはずだよ。だったら、億万長者になる結末でいいんじゃない? 僕は主人公なんだし」

◆未来ちゃん
「ダメ、結末は読者が決めることよ。主人公だからって、あなたが好き勝手ストーリーに手を加えることはできないわ」

『それではお天気です。橋本さーん。はい、橋本です。明日は今シーズン最大の小説のようなものが関東にも訪れる見込みで、平野部でも小説のようなものが降ることが予想されます。これは、昨年よりも二週間早い予想で、明日に小説のようなものが降れば、関東では四十年ぶりの記録更新となります。明日は小説のようなものですので、小説のような服装でお出かけください。それでは』



Copyright © 2017 岩西 健治 / 編集: 短編