第182期 #5
カラン。コロコロ。カランコロン。
空を切った足元から変則的な音がする。
嫌いな音ではないけど、別段好きな音でもない。ただこうしていると気が紛れるというだけの話。
コツン、コロコロ。
よくある民家のアスファルトの塀。
壁に跳ね返った小石がもう一度足元に返ってくる。まるで『もう一度蹴ってみろ』とでも言うように。
追い風が頬を撫でて通り過ぎてゆくけど、小石の意思と同じように、僕にはそれすら無意味に思えた。
小石、風、夜の匂いと、幸せそうな家族連れ。
カラン。コロン。カランコロン。
何事も始めが肝心だって言うけど、僕は同じところをぐるぐる回っている気がする。この小石だって、さっきからずっと変わらず同じところで転がし続けている。
蹴り続けているうちに角が取れて丸くなって、いつのまにか小さくなった石。僕には可哀想に思えた。
カラン。コロコロ。カランコロン。
何度も言うようだけど、僕はこの音が好きな訳じゃない。特別落ち着くだなんて思っても居ない。
そう自分に言い聞かせるように転がし続ける。
大丈夫、大丈夫なんだ。だから。
「……寂しくなんて、ないはずなんだ」
もう一度、小石を蹴ろうと地面から足を離す。もう一度その足を地面にくっつける。そしてそれを二三度繰り返す。
迷いに迷ったけど。
あの時の僕は、小石を蹴るのをやめたかった。 寂しさを紛らわせることを、やめたかったはずなんだ。