第182期 #15

黒山羊の弟

 俺は弟、クルマはアリスト、カマ野郎はぶっとばす。煙草はもちろん缶ピース。懐にはシガレットケース。便所にたゆたうピースの煙。灰皿代わりの缶コーヒー。溢れかえる吸い殻。耳栓代わりのイヤホン。内耳に響き渡る尿道を通る音。耳栓の外にはケンジくんのうっとりとした喘ぎ声。それと、そのチンポに吸い付いている姉ちゃん。
 ケンジくんは背中のタトゥーを醜く膨張させながら姉ちゃんの顔面に叩き付けていた。怒涛のような性欲に為す術もなく、目をぎゅっと瞑ってだらしなく天を仰いでいる。その隣ではクリリンさんが咥え煙草で休憩し、床には後輩が正座で待機していた。

 ケンジくんは暴虐の巨根と呼ばれている。SNS名はケンジ a.k.a テラチンポ。懐いてきた猫の両足を持ってガードレールに振り下ろしたら上半身がなくなっていた、いい感じのスマホケースが欲しいからタトゥー狩りをした等の逸話をもつ。
 ケンジくんはクリリンさんとの抗争に勝ってこの町の王に成り上がった。報復は金属の棒と共に必ずやって来るという伝説が残っている。ケンジくんは最後に六筒と七筒のどちらがいいか選ばせ、六筒をチョイスしたクリリンさんの額に七筒の根性焼きを入れた。そしてケツを掘りながら今日からお前は偽クリリンだからなと笑った。それ以来、先代はクリリンさんと呼ばれている。発音は栗リン酸だ。

 姉ちゃんはケンジくんのチンポに合わせてこくこくと顎を上下させ喉の奥でしごいていた。こうなった姉ちゃんはどんなに声を荒げられようが殴られようが絶対にやめない。ケンジくんは機械的な絶頂を繰り返し、膝をふるわせて泣きながら潮を吹いた。姉ちゃんはその上に甘くしなだれて乳首や手の平を愛撫し肛門に触れる。ケンジくんは背を丸めたまま無言でただ待っていた。卑屈に媚びることにまだ慣れていない惨めな姿だった。

 いつかケンジくんが弟にもしてやれと言い出したことがある。咄嗟に後輩を殴って事なきを得た俺を姉ちゃんは冷ややかに見下ろしていた。姉ちゃんを守るためだと理屈をすり替えていたことを見透かされた気分だった。姉ちゃんの正義には性や倫理など存在しない。姉ちゃんならためらわず俺をレイプするはずだ。
 俺がメスになるなら相手は姉ちゃんしかいないが、その一方でもし姉ちゃんにチンポがあったなら俺はそれをしゃぶりたいとも思っている。
 姉ちゃんは山積みされた男たちの上に君臨している。俺はその弟だ。



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