第180期 #4

ルーティン人生

四六時中イライラする。
動く時も座る時も、食う時も喋る時も、朝起きてから夜寝るまでとにかくずっとである。イライラしていない時間が無い。

筋トレをしようと思って早めに起きた。だが、気付いたらトレーニングベンチの上で2度寝していた。眠気がコントロール出来ていない。
足下にまとわりつく猫が、「ギブアップですか?」と、まるで俺を煽っている様で不愉快だ。

歩いて会社に向かう。
後ろからママチャリに乗ったババアがベルを鳴らして俺を避けていく。
ベルもババアも不愉快だ。

出社した直後に女の上司が「お早う。ねぇお願いがあるんだけど」と俺の肩と腹を触ってきた。この女はいつも距離が近い。二三回ならいいが毎日の様にこんな接し方をされると辟易する。妙な若作りも痛い。どうせ10分で済む雑用なのだから紙に書いてデスクにでも貼っといてもらった方が早い。

雑用を済ませ、自分の書類作成を始める。終わったら収支報告書と会議の資料だ。
ふと、エンターキーを押しても改行出来ない事に気付く。
よりによって何故エンターキーなんだ。Xとかcapslockとか普段使わないキーがいくらでもあるじゃないの。

腹立ち紛れに1600円の安物キーボードを破壊する。膝を入れたら一発だった。汚ねえし買い替えようと思っていた。取り敢えず誰かのキーボードを借りよう。次長のキーボードを勝手に借りて使う事にする。あの人午後から出勤だしばれねぇよ。
皆見てるけど気にしない。

キーボード外したところで「ちょっとちょっと、俺のキーボード持ってかないでよ」と声がかかる。次長が予定よりもだいぶ早く出勤していた。事情を説明して今日休んでる人のを借りなさいと言われる。
「午後からはどうするつもりだったの」
「昼休憩で買いに行くつもりでした」
「飯食う暇ないじゃん。何でもいいけどさ、お前、とても外回りの営業には出せないなぁ」
はあ、そりゃどういう意味だと思ってトイレで鏡を見た。般若の様な形相の男がそこに居た。
感情のコントロールが出来ない。次長に言われた言葉が怒られるより恥ずかしい。
イライラが募る。
何一つ上手くいかない。
劣等感が止まらない。

携帯のアラームで目を覚ます。
なんだ夢か。嫌に現実的な夢だったな。

夢の二の舞にならない様に、筋トレはちゃんとしよう。
自宅のPCのキーボードを予備で持って行こう。
女上司には近寄らない様にしよう。

鏡の前で身嗜みを整える。

般若の様な形相の男がそこに居た。



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