第18期 #4

赤い糸

どうして気づかなかったんだろう
結ばれることがあれば 
切り離されることもあるということを

「ねぇ 赤い糸ってあるかな」
 突然そんなことを聞いてみた。孝徳が驚いた、という顔をして私をみていたのを覚えている。
 あれはあまりにも桜が散りすぎる、北海道の五月。桃色の小さな欠片がひどく目の前をちらついていた。
「赤い糸は・・・あるかな」
 確か付き合ってはいなかった。
二人とも、出席番号が近かったからよく話していた。くだらない話ばかりだったけど、一度だけこんなことを聞いてみた。

「なんであると思うの」
「だってあるもん、俺の指に」
 そう言って、長くて細い孝徳の指が私の目の前に突き出された。孝徳は優しく笑って、私を見てくれた。

私に繋がってないかな

「それは、誰に繋がってるの」
まじまじと、まっすぐに目を見れないまま聞いた。もう心臓は荒波の中の小さな魚みたいだ。あっちへこっちへ動き回る。

私に繋がってないかな

「おまえ」

きゅっという音がした。決して強くない力でなにかが小指に結びついた。ふと、指先をみると孝徳の小指から続く赤い糸が、私の小指に巻きついていた。


夢を見ていたんだ。長い長い夢を。
たくさんの季節を二人で過ごした。

あの日から二度目の桜を見て、小さな公園で笑いながら花火をして、手をつないで歩いて、
「ずっと一緒にいられますように」と
神様にお願いした冬の日。
ずっと二人でいた。
ずっと隣に孝徳がいた。

私を笑って、耳の奥ではいつもあなたの声がこだましていた。赤い糸は、いつも小指に結びついていて。
絶対離れないと思っていた。
世界で一番だと信じていた。

けれど
それはあまりに突然。

「ごめん、他に好きな奴できた」

ぷつんという音がして、糸は切れた。
気づかなかった。糸の先は、あまりにほつれすぎていた。
ごめんね。
ずっと前から、あなたのきれいな小指から
赤い血が流れてたこと
気づけなかった。
ごめんね。
ごめんね。



Copyright © 2004 眞鍋知世 / 編集: 短編