第18期 #18

午睡

 今日はみんなでドライブをしている。一体、どこに向かってるんだろう。聞いても教えてくれない。「着いてのお楽しみ」なんだって。それにしても2ドアのスポーツタイプに4人っていうのはドライブ向きじゃないよーな気がする。

 わたしたちはドライバーを残していつのまにかみんな眠ってしまったらしい。窓の外はもう暗くなっていた。他の二人はまだ眠ってる。随分遠いところなんだな。
「あとどれくらい?」
話しかけると、車は急にスピードを上げて坂道を登り始めた。
 そして、「ちょうど、今着いたとこ。」という友達の言葉と同時にわたしたち4人は車から空中に投げ出された。

 何が起こったのか分からずに身を硬くしていると、持っていたカメラが地面に向かって落ちていった。って、なんでカメラだけ落ちていったんだろう? そういえば車はどうなった?うろたえていると横から声がした。

「あーあ、カメラ登録しとくの忘れてたよ。」
声の方を向くとみんながフワフワ浮かんでいる。どうやらこれが「着いてのお楽しみ」の正体らしい。最新技術を駆使した新世代のアトラクションなんだとか。

「ま、カメラは後で取りに行けばいいよ」
そう言うとみんなはそれぞれに泳ぎ出した。わたし以外はどうやら何度か来たことがあるらしい。気持ち良さそうに泳いでいく。わたしも手足をバタバタしてみると不恰好ながらなんとか前に進むことができた。

 プールと違って、水の重さみたいなものが感じられないのでちょっと変。でも空気をかくと何の手応えも無いのに体が進んでいくのはちょっと楽しい。だんだん慣れてきたので、一人でどんどん泳いでみる。

「あんまり、遠くまで行くなよ」
友達の声もすでに遠い。気がつくとわたしは魚になっている。グングンスピードを上げて泳いでいると今度は体が雲になっている。そして、雨になって地面に向かって降っていく。

 そこら中に、もともと一つだったわたしがいる。なんて不思議な感覚だろう。黄色い傘の上で弾けて、地面に吸い込まれていく。わたしはこのままどこまでも広がってやがて世界になるのだろう。そんな気がした。



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