第178期 #2

W.W.

 落としましたよとその人は言った。ありがとうございますと私は答えた。私たちは同じ方角へ向かいながら互いのことを話した。私たちは同じ名前を持ち同じ目的を持っていた。私とその人は同じ一人の人間かもしれなかったが私たちはそれを認めることができなかった。私たちは同じ目的にそれぞれ違う条件をつけることにした。私は伴侶を得ること。その人は復讐を遂げること。そして私は同じ名前の頭の一字を、その人は末尾の一字を消して私たちの名前ではない名前で生きていくことにした。
 私たちは町で別れた。私はマッチ売りに出会った。私がマッチ売りが持っているマッチをすべて買うとマッチ売りは私を家に招いた。やがて私たちは結婚の約束を交わした。しかしマッチ売りは強盗に襲われて死んでしまった。私はかつて私と同じ名前を持っていた人を探した。私と同じ名前を持っていた人は伴侶を得ていた。条件を交換したいと私は言った。いいですよとその人は言った。マッチ売りを殺した強盗には伴侶がいた。私が強盗を殺すのを目の前で見ていたその人は、やがて私の伴侶になった。
 かつて私と同じ名前を持っていた人が私を訪ねてきて条件を交換したいと言った。私は断った。するとその人は私とあなたは同じ一人の人間ではないかと言った。そんなわけはないと私は言った。その人は言葉を継がず黙って私の前から去っていった。
 私の伴侶が人を殺して追われる身になり私は目的を思い出して二人で逃げることにした。追手の中にはかつて私と同じ名前を持っていた人がいた。私の伴侶が殺した中にその人の伴侶が含まれていたのだ。かつて私の名前だった名前と同じ名前の町で私の伴侶はかつて私と同じ名前を持っていた人に殺された。私はその人を殺そうとしたがうまくいかなかった。私はかつて私の名前だった名前に名前を戻した。そして私の伴侶を殺したあの罪人も私と同じ名前に戻したことを知った。
 私と同じ名前の町で私はマッチ売りに出会った。私はマッチを買わなかったが私と同じ名前のあの罪人はマッチを買い、やがてマッチ売りを伴侶にしたことを知った。私が私と同じ名前のあの罪人を殺すのを目の前で見ていたマッチ売りは、やがて私の伴侶になった。
 町と私は同じ名前を持ち同じ目的を持っていた。私たちは同じひとつの存在かもしれなかったがマッチ売りはそれを認めることができなかった。私たちはマッチ売りを殺し、私たちの目的を果たした。



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