第177期 #6

チョコレエトムウス

 そのとき彼女は27歳で、孤独を味わい尽くしていた。
友人の結婚式に着ていくドレスを用意しなければならないし、
また別の友人には笑顔で、可愛いね。そっくりだね。
と言って、子供と対面しなければならなかった。

彼女は酒が飲めない。
どうすれば周りの人たちのように、陽気になれるのか?
いつも不思議に思いながら、彼らの赤ら顔を見つめるのだった。
自慢。愚痴。自慢。愚痴。


「チョコレートムースが食べたい」
と言われて連れられて来た店は、観葉植物の手入れが行き届いており
都会の真ん中にあるオアシスのようだった。

いまはパンケーキが流行ってるけどね。私はチョコレートムースが目当てなの。
と、スパンコールが派手なネイルの女が言った。
ギラギラと光る。生命力。強い。
フォークで優しく突き刺した(いや、すくった)。

女はなぜだかいつも写真を撮りたがる。
口角をぐっと上げて、目線をカメラに向ける。
はしゃぐことが苦手なのではなかった。
ただ、知りたいのだ。
何の為にこんなことをしなければならないのか。
シャッター音は空虚に響く…。



 そのとき彼は24歳で、大切な恋人を抱きしめていた。
女は同い年で透き通った肌の持ち主で、気立てが良く、
愛嬌も持ち合わせていた。

「25歳までに、いいでしょう? お願い」


懇願されていた。
赤ちゃんを持つなら早い方が良いに決まってる。
私はいつでも一緒になれる覚悟なのよ。
そう言って、彼の指をぎゅう、と握り締めた。

彼は周りの(まだまだ遊び盛りの)友人たちを見回したり、
通帳と睨めっこしたりした。溜め息をすべて胃の中へ押し込んだ。
付き合いたての頃、震えながら泣いている女を見て、
この子を絶対に守ってやろう、と固く誓ったときの気持ちを思い出そうとした。
その綺麗な肌が濡れて、美しさはより際立っていて…。

いつにしようか、と彼が言ったとき、女はもう一度涙を見せた。
しかし、そこには悲しみの色はもう無い。
彼は女の笑顔を見ると、再び決意を固くできた。




二人が長く続かないことなど、誰かに予想できるものではなかったし、
いつだって、新たな決断をするときには、未来を明るく描くものなのだ。
女の望みはエスカレートするばかりだな。と彼は思った。
女の願望を叶え続けた先に、一体何があるというのだろう。


彼は空虚だった。
27歳の彼女と24歳の彼。
空虚な二人が出会うのは、もっともっと後の話だった。



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