第177期 #2
見るもの全てが灰色だった。街行く人々、道路脇の木々。色も輝きも無かった。
都内の高校に通う16歳の俺は、誰とも関わらず、ただ毎日機械のように学校に通い、授業を受け、何事もなく帰る。そんな日々を送っていた。なにも求めず、なにも与えず、ただ無駄に生きていた。
ある日、学校からの帰宅途中だった俺は、光に出会った。彼女は病院の前で、車椅子に座り景色を眺めていた。そこに佇む彼女はとても輝き、色めき、どこか儚げだった。俺は吸い込まれるようにして彼女のところへ行った。彼女は不思議そうな顔でこちらを見ていた。いきなり知らない人が近づいてきたのだから、当然の反応だ。
「こんな都会の景色なんか見てて、楽しい?」
彼女はニコリと笑い、答えた。
「楽しいよ。私から見れば、皆がキラキラしてて眩しいくらいだな」
「いつもと同じ景色だろ。皆毎日同じ生活で輝いてなんかいない」
初対面でありながら嫌味を言った俺に対し、彼女はは嫌な顔一つしなかった。
「君にとってはそうかもしれない。でもね、ここにいる人皆がそれぞれの人生を歩んできてて、その中での喜びや悲しみを全部背負って生きてきてる。皆それぞれが主人公の物語がある。人だけじゃない。空も、木も大地も、今までのもの全部が組み合わさって複雑にできてる。そう思えるから、私には輝いて見えるんだ」
綺麗事だと思った。つまらない答えだと思った。けど俺は彼女の言葉を捨てることは出来なかった。なぜだかその言葉は俺の心に響いていた
その後家に帰る途中、木の葉が少しだけ、緑を帯びていた。
次の日も、その次の日も俺は彼女のところへ行った。彼女はいつもニコニコと景色を眺めていた。そんな彼女と話していくうちに、世界が少しずつ着色されていった。
ある日、彼女がいつもの病院の前にいなかった。心配になり彼女の病室へ行くことにした。そこで俺は衝撃を受けた。そこにいた彼女はいつもの輝いた存在でなく、色の無いただの人形だった。
翌日、彼女は病室で冷たくなっていた。
彼女は俺に輝きをくれたが、俺は彼女に輝きを与えることは出来なかった。彼女は俺が出会った時から、本当は輝いてなどいなかった。俺はそのことにずっと気付けなかった。もし俺が彼女の無色に気付けていれば、俺は彼女を変えられたかもしれない。俺を救ってくれた彼女を、俺は救えなかった。
世界から、また少しづつ色が奪われていった。