第173期 #6
デスクワーク続きで、目がしばしばし、ぼやけたんで目の錯覚かと思ったら本当に雪が降っていた。この勢い、おそらく積もるだろう。積もれば私は雪だるまを作る。雪だるまの鼻は人参だ。赤鼻みたいでかわいらしい。かわいらしいがSEXはしない。なりふり構わずSEXするのはいけないと学校で習った。私はまじめな生徒だ。雪だるまとSEXはしません、神に誓うとごろごろごろ、雷が鳴り、神が降りてきて言う。雪だるまとSEXはしてもいいよ、あんなに純朴な生物はなかなかいないしね。あんたもねたまにはいいことをしなさいよ。雪だるまに夢を与えるのよ。
雪だるまとのSEXはあまりよくない。冷たいし、外だ。だいたい男か女かもわからない。しかし成り立っている。そうかSEXは性器の出し入れだけじゃない。と気づいたが人の目は冷たい。パトカーがやってきて、なんか色々聞かれる。私は雪だるまに夢を与えているわけで、それをとやかく言われる筋合いはない、ときっぱり言う。お嬢さん、と警察官は優しい口調で言う。それはもう雪だるまじゃないんだ、ただの愛液が付いた雪の固まり、ほら、人参を上手に利用して、お嬢さん、はじめてじゃないでしょ?楽しむのはいいんだけどね、ここは町中なんだから、人も見てるし。見てるの?見てるよ、みんな立ち止まって、この群れが見えないのかい?群れ。
やがて群れは飛び立つもので、空一面の群れは、大きな一匹の鳥となりて、その羽で地上を揺らす。足りない、足りないものがある、瞳よ、鳥が鳥であるために、愚民どもを見下ろすために必要な瞳が足りない。さあおいで。わたし?そう、お嬢さんは瞳にちょうどいい形をしている。おまわりさん?もうおまわりさんじゃないんだ、ただの巨大な鳥の鳥部分だよ。わたしもその鳥になれるって?なれるさ、その要素は十分ある。
瞳としての労働は意外とつらい。なんせ全身で見ているわけで休む暇はない。鳥なら鳥らしく巣に戻って眠ればいいのに。まだ作ってないんだ。急いで作るからもう少しがんばってもらいたい。無理、限界、労働組合に訴える。鳥の部分労働組合は立ち上がったばかりで、すでに鳥の部分の6割が加入している。だいたい1割が幹部鳥部分だから、立派な対抗勢力になっている。主張も通りやすいのではないかと思う。鳥の手羽元の部分で開かれる集会にて、わたしは拳を振り上げて叫ぶ、休息を!休息を!鳥の目に休息と、目薬を!