第173期 #3
郵便受けを開けるのが好きだ。郵便のバイクの音がすると、すぐに開けに行きたくなる。幼いだろうか。古いだろうか?
だがともかく私はそうなのだ。
バイクのエンジン音がして、私は部屋着のまま外へと出る。バイクの赤い背中を見送りながら、郵便受けを開ける。
私宛の手紙を見つけて、少しホクホクする。私を忘れていない人がこんなにもいるという事に、安心する。
遅めの年賀状は、旧友からだった。
私は、出さなかった。会わなくなる前少し疎遠だったので、悩んだ末出さなかったのだ。
彼はこう書いていた。
『今あなたが何をしているにしても、頑張ってください』と。
私は、全てに嫌気がさして、彼と一緒だった学校を飛び出したのだった。要は、私は中退者である。私は、彼が今だ負けず突き進む荒波に負けて、海の外に飛び出した愚か者である。
『僕はもう一度会えたらな、と思います。』
涙が滲んできた。私は今や落伍者だ、だが私は彼と席を同じくしていた時、心の中で彼を下に見たことが一度も無かったと言えるのだろうか。
『最後に、体調を崩さない様に、体には気を付けてね』
外では、雪が降っている。白一面の銀世界。舞っては落ちる淡雪が、ぽとりとおちる。そして元々積もった雪にまぎれて見えなくなった。
私は、今すぐ手紙を千切って外に埋めたい衝動にかられた。
そうすれば、文字は滲んでもう二度とこの手紙を読むことはなかろうと思った。庭への窓を開けた時、母が言った。
「やめてよ、お年玉当たってるか見るんだから。」
私は興ざめた。
母の言う通り、年賀状を箱に入れて、そして私は、雪を蹴り飛ばした。