第172期 #7

あいの、アイノぅ

 私は天使。ねえ、あなたが好き。だから牛乳をください。コップ一杯の、のどが渇いたので、ありがとう、唇を拭くタオルをください、ありがとう。羽根は後で見せます。だから少し待ってください。天使はめったに人前に姿を現さないので。羽衣? 天女のことでしょうか。勘違いしています。あれらは空に浮かびます。私たちは空を飛びます。天女は羽衣を脱いだら地に沈みます。天使は裸でも羽ばたくことができます。ロマンチックな話を聞かせてください。ありがとう。羽根は後で見せます。今はまだ湿っているのです。あなたにしてもらったそのお話ですが、どこかで同じような話を私も聞いたことがあります。待ち焦がれる話です。あなたのお話と、私の知っているお話では、ひとつ違う点がありました。何を待っているのか、あなたのお話ではそれは明日でした。私の場合は天国です。冗談だと思っていますか。私たち天使の間ではそれはとても果てしない匂いがするものです。天女は浮いたり沈んだりします。天使は飛んだり落ちたりするのです。私たちにとっても天国は日常ではないですし、ラッパを吹いたりもしないのです。
 お待ちかねのの羽根です。おかげですっかり乾きました、ありがとう。思ったより獣臭くないでしょう。当然です。鳥とは違います。あ。そういうの、全然くすぐったくありません。大丈夫です。帰りたそうにソワソワしません、お気遣いなく、ありがとう。私の名前をどこかで聞いたことがありますか。天使という以外に、私のことを何か知っていますか。名前はラブに似ている、そういわれることもあります。当ててみてみませんか。「あいの」そう、もう少し「アイノぅ」あ、全然違いました。ごめんなさい。

 私は天使。ねえ。あなたが好き。だからお金をください。もう雨は止んだので。ありがとう。羽根がまた汚れてしまったので、今日はもう飛べません。今日はもう歩いて帰るので。どこに帰るかですって? 冗談だと思っていますか。家にです。家に帰って、身体を洗うのです。羽根も洗うので、明日は晴れていても、飛ぶことはできません。太陽に背を向け、羽根を乾かし、自分の影を見ながら過ごします。



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