第170期 #14

森と泉にかこまれて

カナデイアンロッキーにバンフという村がある。日本から新婚旅行者が詰めかけた山間の城をホテルにしたバンフスプリングというホテルが一番奥に鎮座している。バンクーバーからカルガリーへ、空港から乗り合いバスに揺られ、真夏でも雪が舞い散る国立公園の中の避暑地である。夏には白夜が体験できる。冬であればオーロラが見れるかもしれない。ワーキングホリデーを利用した日本人留学生アルバイトが日本人の旅行者の世話をするとても贅沢な場所。1988年カルガリー冬季オリンピックが開催され、山肌にスキージャンプ台がレガシーとなっている草原の横を通り、万年雪の山脈に向かって山道を約2時間、道路の最終地点に立つと、お城をかたどった高原の一番奥にある超高級ホテル。しかしその手前には山小屋ロッジの宿が並び、日本飯にもありつけるから面白い。こんな辺鄙な一等地にリゾート型ビジネス商談会などを催す展示会、発表会的なイベントを行う人たちがいる。そのに集う主催者や顧客は家族連れで超高級ホテルに泊まり、1週間を過ごすのである。吉田はそのイベントに商品や展示物を輸送する仕事に駆り出された。こんな辺鄙なところで世界中から衛星中継をつなぎ、通信技術を展開するなどいかにもバブリーな展示、大都会とアフリカ、ギリシャや南極までホテルの一室に世界中をつなぐ、最先端技術の発表を全世界に向けて発信する。なんでこんなことをするのか、白夜で夜中1時間半くらいしか日が沈まず、一日に四季が繰り返す、こんな山奥の場所で、森と泉にかこまれて、子供の頃の替え歌のようにとんかつやニンニク、こんにゃく、てんぷらが頭の中を走り回る。しかし現実に食事をとるとラーメンやカレーライス、お好み焼きまでが、日本の観光地と同様に食べられる不思議な世界であった。太陽が出れば気温20度、曇れば10度、雨が降れば5度前後、そのまま霙、雪に変化する異常気象?いやそれが通常の山の天気である。長野や北海道の高い山脈の中腹の気候。麓から雄大に広がったロッキー山脈からその突端の山の峰しか見えない風景、ジグソーパズルの森、湖、山の風景そのものである。日本人はここに家族を連れて仕事には来れないな、ハネムーンで完全に休みにならないと絶対これない。悲しいですね。しかし、何んで来ようが、一遍の風景画を楽しむスケッチブックを独占できる贅沢な場所。実に魅力的な自然を利用したリゾート地なのである。



Copyright © 2016 Gene Yosh(吉田仁) / 編集: 短編