第17期 #9
てのひらの上の折れ曲がった羽は、風に飛んで見えなくなった。起き上がると、倒れた私の形に窪んでいる雪があり、雪面に着いた腕が、ずぶと沈む。
握り締めていた時には羽と気がつかず、雪とは違う白い何かということしかわからなかった。冷えた体を震わせ、うつ伏せのままどうにか首を動かし、ようやく判った。徐々に体温が上がり始め、神経がぴりぴりと指先へ流れた。指を伸ばすと、雪をさらう風が吹き、羽も共に舞い上がった。
雪の上の手は青白く、かじかむどころか凍えてろくに動かせもしなかった。感覚がほとんど無く、どうにか指の隙間から握っている物を見た。私の手のような死にかけた白ではなく、雪のような透明な白ではなく、ただ白い物が手の中にあった。
何を握っているのだろうか、指は言うことを聞かず、力も入らず、恐ろしく時間をかけ、それでも僅かな隙間しか得られなかった。
隙をついた光が、私の目を刺した。あまりの眼痛に瞳を閉じたが、すでに遅く。ちらちらと、赤い目蓋の裏側で何かが踊る。短く吐き気に襲われた。
目をつむって何時間もそうしていたような、ほんの数分だったような。しばらく、冷たい雪の上にいることを、私は忘れていた。
何か気配を感じたような気がした。私は死んだ振りをしたままだった。このまま春までいようかと思った。そのほうが今よりもずっと楽だろう。耳元で、雪が体温により解ける音がした。
鳥が頭の上を、黙って私を見下ろしながら通り過ぎた。何も見なかった振りをし、黒い影が雪面を滑る様子だけを残した。
消えていった先へ、追いかけもつれた足は、私をその場に留まらせた。ばたりと倒れ、冷たい湿りを頬に感じ、誰もいない冗談で目を閉じてしまった。
空から見れば、今の私ほどこっけいなものは世界に無い。
私は精一杯の速さで、雪をかき分け歩いていた。後ろにでこぼこと醜い痕を残した。振り向いてはいけなかった。どうしても歪む道のりに、歩いた距離を測り、いかに自分が愚かなのかを己に叩き付けることになるのは、わかっていた。空を見上げた。青が静かに降り注ぐ。
どこまでも白い国で、冷たい気を頬や体に感じた。目に映るものは全て、吐く息すら、白い光の屑だ。一歩踏み出し、深く足跡が残る喜びに、私の息は荒くなった。
さあ行こう。
自分へ向けた、その言葉は始まりだったはず。