第17期 #2
或る定時に床に就くのだが、どうしても深みに入ることができない。寝床の闇が明るく感じられてならない。
そのような不鎮の夜、私は部屋を抜け出しては決まって或る場所へ赴く。
誰とも擦れ違わず、生み出されたばかりの空気を胸に入れながら、私は暗い道路の真中に佇む。
痩せこけた猫の、無惨な轢死体である。
三日前の仕事帰りの夕暮れに、その猫はまだここで微かに息をしていた。息を吸い、その倍の血を吐いた。
布団に入っても、その猫のことが気に掛かった。悲哀や同情ではなかった。死の跫を、私も同じように耳元で感じ取っていたのかも知れなかった。
飛び起きて猫の元へ向かうと、もう容れ物だけになっていた。
それから毎夜、私はこうして人気のない道路に佇み、もう動かなくなった、かつて猫だった物を未明まで眺めている。
未だ息をしているように見えて恐ろしくなることがある。それはあの世の息を吸い、あの世の息を吐いているのかも知れない。あの世は暗く、静かであるのか。寝床の闇よりもより一層の闇であるのか。
或る夜、猫の死骸に無数の蛆が集っていた。
私という先客を差し置いて、面の皮の厚いことである。
見下ろす私など目も呉れずに、蛆は腐肉を貪り、体を波打たせている。静態する猫の死骸と動態する蛆の群れ。
夜が白々と明けてきた。
私も、蛆の様に生きねばならぬ。