第17期 #1
諒子が好きだ。彼女とは高校時代に同じ放送部員として出会った。アナウンサー志望で、歌うように曲を紹介する彼女の声は校内でも評判になるほどだった。僕達はよく居残って翌日にかける曲をああだこうだと熱を込めて選んだものだった。校内のアイドルを独り占めしているその時間のために僕は学校に通っていた。
彼女から連絡があった。突然。
「ごめんなさいね、急に呼び出したりして」
「用件は何?」
「……これを持っていって欲しいのよ」
「わかった……それだけかい?」
「うん」
中からレコードが数枚見つかった。諒子が好きで、僕も好きになった曲たちだった。今でも空で歌える。僕は口ずさみはじめた。
彼女にプレゼントした様々なもので荷物の中は埋め尽くされていた。服。靴。貴金属。写真。ひとつひとつに思い入れのある、派手ではないが大切なものたちだった。
帰り道で、不意に大きな声で歌いたくなった。酷い人間だなと思った。外は胸を刺す冬で、ひとりで歩くには今の格好では足らなかった。
部屋で彼女の好きな歌に埋もれる。このまま何もかも昔に戻ってしまえばいいのに。
散乱する彼女のものだった僕のものたち。彼女のものでなくなった今、僕のものである必要もなくなってしまった。ひとつひとつ壊していく。使い物にならないように、壊していく。
自分を優先していることに気がついていても、けっきょく何も変われないまま年を重ねている。こんなことを何度繰り返すつもりなのだろう。責め立てている傍から、あの人の顔が頭に浮かんで消えない。
今でも僕は、諒子が好きだ。
それでもやはり、由佳里が好きだ。
私は、昇が好きだ。