第17期 #16

奉仕される人

「お待たせしましたご主人様、何をお持ちいたしましょう?」
居間に現れた蘭が小さく礼をした直後、カメラのストロボが光った。
「とても似合ってるわ、蘭」舞はOKサインを出しながらもう一度ストロボを焚いた。「着心地はどう?」
「どうも下がスースーしてね」いつもの口調に戻った蘭は、スカートを押さえながら座椅子に腰を下した。
「タイツ履いてるからいいじゃない」華は、蘭と同じ白いタイツに包まれた脚を卓袱台から出して見せた。
「こんな薄手じゃあね。それに子供用じゃないの、これ」
「でも今日は良かったわね」向かいの雪は体を伸ばし、缶ビールを蘭に渡した。「皆の誕生祝いだけでこんな可愛くなれるなんて」
「良かったわね、じゃないでしょ」蘭はビールを口にしながら、エプロンのフリルをつまんだ。幸が丼を片手に台所から現れたのは、その直後だった。
「お待たせ、ピリ辛アボカド丼よ」
「あ、ありがと」目の前に丼を置かれた蘭は、カチューシャを外しながら箸に手を伸ばした。「大体おかしいのよね、5人のプレゼントを合わせるとメイドになれますなんて…桜?」
「まだ外しちゃ駄目よ」桜はカチューシャを蘭の髪に戻し、軽く櫛を通した。「これも服の一部なんだから」
「あと舞はもっとスカートが長いのを頂戴、股下10センチもないなんて毎日着られないでしょ」
「今日ぐらいいいじゃない、いつもパンツルックなんだから」ケーキを切り分け終えた舞は再びカメラを手に取り、蘭に向けてストロボを焚いた。
「ところで靴は脱がなくていいの?」幸は蘭の靴のベルトに手をかけながら訊ねた。
「履いたはいいけど、脱ぐのが面倒で」
「いい事を思いついたわ」カメラのレンズを戻した舞は、コートに手をかけながら応えた。「このまま外で記念撮影しましょう」
「この格好で?」
「近くの公園までだから10分ぐらいで終わるわ」
「そういう問題じゃ…きゃっ!」舞に抱き上げられた蘭は、慌ててスカートの後ろを押さえた。「せめてケーキぐらい食べさせてよ」
「大丈夫、私が持っていてあげるから」華は切り分けられたケーキを皿に載せ、立ち上がった。残る3人も丼やビール、箸などを手に取り、玄関へと向かった。
「それではお嬢様、撮影会場へ向かいますよ」蘭を抱きかかえた舞は玄関の鍵を開け、初雪の残る路上へ降り立った。
「こ、公園までなら歩いて行くからあっ」舞の腕の上で蘭が脚をばたつかせる中、舞達は公園での撮影会へと向かった。


Copyright © 2003 Nishino Tatami / 編集: 短編