第17期 #17

DRIVE

 この男がこんなに運転がうまいとは思わなかった。だってギターなんて持っているんですもの。肩にギターなんて。メーターを覗いてみる。意味ありげな五、六桁の数字をメーターはさしているけれど、あたしには良く解らない。車のことなんてあまり興味が無かったから。とにかく風景は凄かった。なんだかどんどん色々なものが通り過ぎて行く。あたしには生まれて初めての高速道路だった。きらきらと光り輝く赤いスポーツカーを、あたし達はするりと追い抜く。
 あたしはバッグの中へ手を入れ、本を開いた。
「万引きなんて、いけないよ」
「万引きじゃないわ。だって店番のあの男の子、あたしが本を手に取るととても愛らしく微笑んだのよ? あれはあたしに、それを持っていって欲しい、っていう合図だったんだわ。運命だったのよ」
「レジには男の子なんていなかったよ。レジには石像があるだけで」
「石像だったのは鷹よ。石像の鷹が飛び立つのを、あの男の子とあたしは一緒に見上げた」
 本は詩集だった。なかなか良い詩集で、あたしの好みだった。ひたすら美しい言葉ばかりが並んでいる。ああでも窓を開けると詩集は風に負けて、どんどんバラバラになって車外へと吹き飛ばされていってしまう。
「止めて止めて。詩集が」
「詩集なんて良いじゃないか。僕が歌ってあげるよ」
 男はハンドルから手を離してギターを構えた。ギターなんてダサくてヤダなあ。頭の悪そうな男の子達は、いつも駅前に座り込んでじゃかじゃかうるさく弾いていた。でもこんなに間近でギターを聴くのは初めて。
 車はよたよたと頼りなくよれ、壁にぶつかったり跳ね返されたりする。それでも車は走り続ける。
「僕の歌はどうだい?」
「まあまあ、ね。あなたはあまりじゃかじゃか弾かないから、そこだけが良いわ」
「ありがとう」
 男のギターには弦が無かった。なるほど、これならうるさく無い。発明だな、と思った。
 車はいつの間にか花園を走っていた。色とりどりの花々。七つの小川が静かに静かに流れている。
「砂漠に向かっていたんだがな」
「ね」
 車はぶちぶちと花を轢き散らしていく。花びらが舞って、視界が花色に染まる。車は走り続ける。男が次の曲を歌う。詩集はどんどん風に飛ばされていく。あたしはそれをうっとりと見つめる。
 花園はどうやらビルの屋上にあったようだ。あたし達はフェンスを突き破る。そして眼下に見えるさっきまで走っていた高速道路へ飛び降りていく。



Copyright © 2003 るるるぶ☆どっぐちゃん / 編集: 短編