第169期 #9
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。おじいさんが山にはいると、どこからともなく化け物があらわれて、行く手をはばみました。
「わわ。化け物じゃ」
おじいさんはびっくりして逃げ出しました。どこをどう走ったのか、おじいさんは小さなみずうみのほとりに出てきました。おじいさんでも知らない場所でした。森のほうに戻ろうかと思いましたが、木がうっそうとしげっているし、なによりも化け物がこわいので、みずうみに沿ってゆっくりと進むことにしました。
やがておんぼろの小屋が見えてきました。小屋のそばには木が立っていて、葉っぱはすべて落ちているのですが、何かの実がひとつだけなっていました。小屋はあまりにもおんぼろなので、助けをもとめようかと考えていたおじいさんはがっかりしてしまいました。
「しかたがない。あの果物だけいただくことにしようかの」
木の根元がぼっこりともりあがっていて、足をかけられるようになっていました。おじいさんは息をととのえてから、ぐいっと木にのぼりはじめました。すこしずつ持ち手をさがしながら、おじいさんは上へ上へとのぼっていきます。もう小屋ははるかに下に見えています。でも果物にはもうすこし手が届きません。また一歩おじいさんが木をのぼると、果物はいつのまにかまた遠ざかっていきます。
「なにかおかしいのう」
おじいさんは首をひねりました。辺りがすっと暗くなってきたかと思うと、ごろごろと雲があやしげな音をたてはじめました。と思う間もなくはげしい雨がたたきつけるようにふってきました。稲光がして雷のおとがひびきわたります。おじいさんは首をすくめて、どうしたものかと考えますが、いい方法はありません。そうこうするうちに雷はどんどん近づいてくるようでした。木のえだに抱きついて顔を下に向けると、木の根元に化け物が立っているのが見えました。
びっくりしたおじいさんは再び木をよじのぼりはじめました。次のえだに手がとどくと、その先に果物がなっているのに気づきました。おじいさんが果物に手をのばそうとすると、果物はぐんぐん大きくなりました。ぐんぐん大きくなった果物はばっくりと口をあけるとおじいさんをひとのみにして、そのままみずうみの方に落ちていきました。水しぶきを上げたあと、その実はゆったりと流れていきました。