第169期 #2

秋の夕暮れ

君と見た、あの狂わしい程に真っ赤な夕暮れを観たのは何時だっただろうか。
あの時君は確かにこう言ったんだ。
『来年もまた、一緒に観よう。』って。
その言葉一つで、僕は僅かにでも救われた様な気がした。
たとえ、どんな難病を患っていようと、君と会うときだけは明るくなれた。
あの優しい笑顔や、照れた時に頬を触る癖なんかが鮮明に脳内に写し出されて、恥ずかしいような、照れくさいような、何とも云えない感情に押し潰される。
今まで、なんの感情も無かった僕に、普通に笑ったり、泣いたり、怒ったり、当たり前の感情を教えてくれた君。
『もう、お別れだね。大丈夫、きっとまた何処かで会えるよ。』
なんて、最後まで格好よく言って終わりたいけど、どうやらそうはいかないみたいだ。

嗚呼、可笑しいな。
死にたくないって少しでも思ってしまった。

僕はもう、駄目みたいだ。
意識が朦朧としてきた。
考える事さえ、ままならない。

まだ、君とやってみたい事が沢山あるんだ。

せめてもう一度、君とあの日の夕暮れを見たかったな。



Copyright © 2016 黒崎 柚 / 編集: 短編