第169期 #14
私はある惑星に捨てられた。
黒い空に仲間の宇宙船が消えていくのを見送ったあと、私は宇宙服を着たまま歩きはじめた。これは、私が仲間の一人を殺してしまったことに対する罰であり、私はその罰を素直に受けようと思った。
惑星には地面のほかには何もなかったが、遠くに山脈が見えたので、私はそれを目標にして歩くことにした。
私は光の差す昼になると歩きはじめ、夜になると眠った。惑星には大気が存在しないせいで、昼間でも空は真っ黒だった。宇宙服の酸素はとっくになくなっていたが、息が苦しくなることはなかった。もしかしたら自分はもう死んでいるのかもしれないし、あるいは夢を見ているだけかもしれない――もし夢であるなら、本当の自分はどこにいるのか――本当の自分は今、幸せなのか――などということをヘルメットの中で考えているうちに、百回ほど昼と夜が繰り返され、遠くに見えていた山脈の頂上まで辿り着くことができた。頂上から眺める空は青く、山脈の向こうには緑の森が広がっていた。そしてその先には、灰色の大きな街が見えた。
私は山脈を下り、最初に目にした民家の玄関を叩いた。すると老婆が現れて、お茶でも飲んでいきなさいと言うので家に上がった。私は宇宙服を着たまま畳の上に腰を下ろし、ずっと被っていたヘルメットを脱いだ。テーブルの上に煙草が置いてあったので、一本口にくわえて火を点けた。しばらくすると、お盆を持った娘が現れ、私の目の前にお茶を置いた。お婆さんはどうしたのかと娘に尋ねると、お婆さんはもう死んだわよと言って、娘は仏壇のほうを見た。
「そんなことより、今日は買い物に連れてってくれる約束だったでしょ。あなたも早く支度してよ」
私は娘と車に乗って街へ出かけた。デパートは家族連れやカップルで賑わっていたので、きっと今日は日曜か祝日なのだろうと思った。娘は私を水着売り場へ連れて行き、水着を試着してポーズをとりながら、似合うかどうかを私に尋ねた。よく分からないと私が言うと、娘は頬をふくらませてカーテンを閉めた。
それから秋になって娘と結婚すると、一年後に息子が生まれた。息子は中学生になると、ガールフレンドをよく家へ連れてくるようになった。
そしてある時、息子のガールフレンドが突然私の耳元で囁いた。
「あなたはもう死んでいるのよ」と。
私は彼女を抱きしめ、教えてくれてありがとうと言った。息子はその様子を黙って眺めていた。