第168期 #7

ラスボス

 ついにラスボスを倒した。コンティニューなしで十回勝ち抜くとようやく現れるラスボス。特別に強いわけではないが、紙一重の差がいつも埋められなかった。金と時間をつぎこんでようやく奴を上回った。これで世界が救われたのだ。
 邪悪で醜悪なモンスターどもを次々と葬り去ってきた。画像が妙にリアルで、見ているだけで吐き気がしてくるモンスターどもだった。生理的な不快感をわざわざ刺激してくるような気持ちの悪さ。奴らを叩きつぶしたい。消し去りたい。それがこのゲームにのめり込む要因の一つであったことは確かだ。
 このゲームはそんなに流行っているわけではない。そこがまた気に入っていた。今のところ周囲でやっている人は誰もいない。自分だけが知っている優越感みたいなものだ。
 ラスボスを倒して世界に平和が戻ったはずなのだが、敵の襲来がなくなるわけではなかった。ボス級の異常に強い敵がふいに現れて襲いかかってくるのだ。少しも油断できない。
「先輩もこれやってるんですか」
意外な奴が話しかけてきた。
「ああ。お前もやってんの」
「ラスボス倒したんですか。すごいなあ。おれもいいところまでいってるんですけど」
 自分だけのテリトリーを侵されたようで不愉快だったが、興味を引かれたことは確かだった。お前がどれほどのものか見せてみろという気分。
「ほら、だいたいラスボスまではたどりつくんですけどね」
 奴の画面を見るとボスの一つ手前を倒しかけていた。「死ね、死ね」とつぶやきながら攻撃コマンドを出すこいつもかなりの中毒者だ。横から見ているとあぶない奴としか思えない。
「よっしゃ。倒した」
 場違いな声のボリュームに動揺した瞬間、ポケットのなかの端末が通知を受け取った。取り出して確認するとあのゲームが起動している。またしても敵の襲来だった。何だかうんざりしてきた。ラスボスを倒したら世界に平和が戻るのではなかったのか。終わりなき戦いは幸せなのか。しかももう自分だけのひそかな楽しみでもない。
 隣り合って仲よくゲームしているのも実にくだらなかった。でもすぐに気がついた。隣の画面のラスボス、あれはおれだ。自分は正義の味方のはずだったのに、いつのまにかラスボスになっていた。醜悪な姿で全国のプレーヤーからありとあらゆる悪意を向けられる存在。そんな馬鹿な。おれの画面と隣の画面、どちらが真実なのだろう。どちらが真実から目を逸らすための変換情報なのだろう。



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