第167期 #7

夏の夜の出来事

夕飯後、洗い物をしていると零くんが「あのさ」と真剣な顔をしてカウンター越しに声をかけてきた。
「何?」
顔をあげると随分近いところに零くんの顔があって、ちょっとビックリした。手に持っていたスプーンが手から滑り落ちて、シンクの上でカタンっと音がする。拾い上げてさっと洗って水きりに入れるボクを零くんはじっと見ていた。
「何か言いたいことがあったんじゃないの?」
ボクは零くんの視線から逃れたくて言った。
「あのさ」言いにくそうに口を開いた零くんから出てきた次の言葉は、彼のどうしようもない頭の中そのものだった。
「オレ、もしかして夜這いされてる?」
「は?」
思考がうまく回らなくて、何を言われているのかわからなかった。手から皿が滑り落ちて行かなかったことが幸いだ。
「ここ最近、起きたら全裸なんだよ。いっちゃん、もしかして……」
「ないです。夜這いなんてありえません」
ボクは大きな溜め息をついて、最後のお皿をすすいで水きりに立て掛ける。
タオルで手を拭いて、ボクはソファーに移動した。
「全裸って、どこまで脱がされてるの?」
一緒に移動してきて隣に座った零くんに尋ねた。
「全裸だって。パンツもはいてねーんだよ。おかしくね? だから、いっちゃんが夜……、イテッ」
零くんの言葉が終わらないうちに、ボクは零くんのおでこを叩いた。
「だ〜か〜ら〜、違うって言ってんじゃん」

夜、現場をカメラ撮影でもしたらいいじゃないか、と言ういっちゃんの提案で、オレは隠しカメラをセットして寝ることにした。でも、夜這いの犯人なんていっちゃんしかいなくね?
翌朝、オレはやっぱり一糸まとわぬ姿で寝ていた。隠しカメラがあると知っていて、いっちゃんも大胆だな、なんて思ってしまう。
寝てて記憶がないのが悔しいけど、夜の行為はこの隠しカメラがバッチリ押さえているから……、なんて思うと顔がにやける。
でも、録画した画像をどれだけ見てもベッドで寝ているオレしか映っていない。エアコンが切れたあたりからだろうか、寝返りが激しくなって、そして……。

ただいまってリビングに入ってきたいっちゃんに、「いっちゃん、オレ……」とガッカリして言ったら「暑くて自分で脱いでたんでしょ?」って返ってきた。
「24時間エアコンつけてたら? 機械の熱で部屋、暑くなるんでしょ?」
「知ってたんだ」って言うと、「まさか自分でパンツまで脱いでしまうなんてビックリだけどね」といっちゃんは呆れ顔だった。



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