第166期 #10
花火を見に行こう、とキミがメールを送ってきた。外は暑いし、人の多いところは嫌がるし、挙句、蚊に刺されるからと夜の外出は殆どしないのに、今日は花火が見たいらしい。
現地集合ね、とメールにあったから、急いだけどちょっと遅刻だ。終業後に人の集まるこんな場所に車で来て、若干の遅刻で済んだのが奇跡だ。
「アッ君、お待たせ」
ボクより更に遅れてキミがやってきた。いつもよりずっと可愛いって思うのは、きっと浴衣のせいなんだろうか。
「浴衣、着てきたんだ」って言ったら、「そう、ちょっと気になることがあってさ」とキミが言う。
「早く行こ」カラカラと音を立ててキミは歩き始めた。キミの後ろ姿を見ながら、夏マジックとはこういうことなのか、なんて思う。
適当な場所で立ち見をした。たくさん人がいて、立ちっぱなしで、暑かったせいかもしれない。キミは「アッ君が暑い!!」と言ってボクから離れていたのに、気が付いたらボクの腰に手を回して、ボクにもたれかかっていた。
いつもと違う格好をしてるってだけでボクはドキドキしていたのに、そんなにくっつかれたら余計にボク自身が熱くなってしまう。
全ての花火を見終わって、駐車場まで移動する途中、ずっとボクにもたれかかっているキミに「大丈夫?」って声をかけたら、「アッ君、ムラムラしてきた?」って返ってきた。
「私はもう、暑くて耐えられないけど」
イラッとして、このままここでどうにかしてやろうか、と思ってしまう。まさか、そんなことの為にボクにくっついていたのか。そして、ボクはまんまとそれに嵌まったというのか。
ボクの表情で何かを察したキミは「その後、アッ君どうする?」って聞いてきた。「何が?」ちょっとムッとした声が出る。
「すごい肌蹴ることになるんだよね。アッ君、直せる?」
言っていることが分かった。キミが気になっていたこともわかってしまった。つまり、浴衣を着た人と青姦した後どうするのか? ってこと。
「殆ど帰れないと思うんだよ。着付けなんてまともにできる人ばかりじゃないし」
つまり、それを確認したくて今日は浴衣を着て試行錯誤した末に、浴衣を着たからとりあえず花火でも見に行こうか、と思ったってことか。
「試してみる?」って言ったら、「蚊に刺されるかもしれないから、アッ君がオオカミになった時は、大声で叫ぶ」って、真顔で言われた。
嫌がる相手だと青姦ではなく強姦だから、この話は成り立たない、そういうことか。