第165期 #8
石川芙美子は家政婦だ。
家政婦のプロフェッショナルだ。
担当する家を整えていく芙美子は美しい。
汗ひとつかかずに整える。
無駄な動きはない。
歩いていく芙美子の手は高速で動いているため見えない。
誰かがうっかり手を近づけようものなら、けがをする。
運が悪ければ切断されるかもしれない。
危険だから芙美子が仕事をしているときはおとなしく見ていること。
近づけば安全は保証しません。
ばばばと肉片になりたくなければ、ソファに座っていなさい。
そして奇跡を目撃するのです。
あなたは幸運だ。
奇跡はそう簡単に訪れたりしない。
けれどもここに訪れるのです。
祈ろう。
ほら、芙美子はゴム手袋をはめて、口紅をひいている。
紫の口紅は芙美子によく似合う。
いっさい妥協がない。
めがねはかすかに色が入っていて、UV加工がほどこしてある。
屋外の仕事もある。
芙美子ぐらいの家政婦になれば庭も整えるからね。
庭職人もかねている。
もちろんうまい食事を用意できる。
芙美子が作る料理は健康面も考えられている。
料理人もかねている。
栄養士もかねている。
時々胸が大きく開いた服を着てくる。
割烹着の下は下着だけということもある。
妻もかねている。
同じ昔話を何度も初めて聞くように聞いてやる。
孫もかねている。
フリスビーを投げれば追っていき、宙でキャッチする。
犬もかねている。
口に洗濯物と洗剤を入れれば数十分で洗って脱水までしてくれる。
洗濯機もかねている。
目撃した殺人現場の様子を思い出して自分で整理する。
刑事もかねている。
芙美子は世界を作り、人間を作り、秩序を作った。
神もかねている
芙美子は社会を整える
芙美子は世界を整える
芙美子はあなたを整える
芙美子はあなたを整える
芙美子はあなたを整える
リピートアフターミー、芙美子はあなたを整える
芙美子はあなたを整える
ふみこはあなたをととのえる
ふ・み・こ!
ふ・み・こ!
芙美子を信じなさい、さあ芙美子の整えた壷を与えます
芙美子に捧げなさい
芙美子の割烹着のポケットの中に捧げなさい
たくさん捧げれば、たくさん整える
列を作り捧げなさい
順に並び捧げなさい!
列を乱すものは、芙美子に整えられるぞ!