第165期 #7

立看板

 高校に体育祭の季節がやってきた。
 生徒たちは自主性を発揮し、青春を振りかざしながらリレーをする。綱引きをする。借り物競争をする。17歳と体育祭。ある者は斜に構えながらも選手に選ばれた。ある者は受験勉強の息抜きとして取り組むことにした。またある者は社会性を身に着け、リーダーシップを発揮する機会だと前向きにとらえた。皆が皆思春期であるにもかかわらず学校の仕組んだカリキュラムに抗わず思い思いの熱を発散することで教師たちの期待に応えていた。そうした様々な反応がすべて体育祭の名のもとに統べられ、青春の名のもとに個性に還元された。
 しかし素数のような人間はどこにでもいた。四十人のこのクラスにも、割り切れない人間は四人いた。走れと言われれば走るし、体操をしろと言われればするが、それだけ。自分の可能性を微塵もそのようなイベントで発揮したくない、そのようなところで自分のレッテルを貼られたくない四人は消去法でグループとして集められた。一人一人が小さなつまらない個性を隠し持っており、お互いに否定されない程度に少しずつひけらかした。
 そんな四人にも組織から課題は与えられた。体育祭で掲げるクラスの立看板を作る役を割り当てられた。仕事は四人を憂鬱にしたが、納期が彼らの手を動かした。工作の素養のない四人は試行錯誤を繰り返し、慣れない鋸で指を切ってしまう者もいた。作業を進めるうちに次第に四人に団結のようなものが芽生え、期日の前日にやっと立看板は完成した。密やかな充足感が彼らを満たした。
 そしてその日の午後には彼らの立看板は強度不足として壊されることとなった。クラスの中心人物たちが笑いながら立看板を壊していった。四人はその姿を教室の窓からひっそりと見ていた。最初目を合わせた後は何も言わずただ窓の外の光景を見ていた。
 次の日には看板を壊した連中の手により、新しい立看板が模範的な団結の力で作り上げられた。たった一日で作られた看板は体育祭当日もその威容を誇り、コンテストで優秀賞を受賞した。受賞のアナウンスが鳴る脇で四人はやはりひっそりとしていた。四人は卒業まで特に仲良くなりもせず、かといって無視しあうようなこともなく、卒業と同時に連絡を取らなくなった。誰一人として同窓会に参加することはないが、そのうちの一人は今でもたまに手持無沙汰な時などに左手人差し指についた傷をそっとなぞる。



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