第164期 #9

鳥の詩

その鳥は死が近い者の肩にのる。羽は白く、一見鳩のように見えなくもないが、その種類は分からない。
私たちからその鳥に触れることはできない。見ることもできない。鳥を見ることができるのは、死に近づいている者、と、その者に一番近い者。

ある新興国に、父と娘が居た。父は最近胃がんとわかり、病院へ入院していた。娘が花瓶の花をかえにきた。
「お父さん、調子はどう」
「悪くないよ。薬の副作用もないみたいだ」
「苦しかったらすぐに言ってね」
「はは、大丈夫さ」
「もう、まったく。窓開けるよ」

「寒くないか」
「私は平気。あ、見てパパ」
「どうした」
「見てみて、鳥が飛んでる。見たことない鳥だ」
「こんな所に鳥がいるなんて。考えてもみなかった」
「あ、こっちに来てる」
「お、肩にのったぞ」
「本当、かわいいね」
「寒くないか」
「私は平気」
「そうか。・・・吹雪いてきたな」
「パパ、何だか眠いわ」
「大丈夫か」
「夜更かししたからかな」
「寝るんじゃない。・・・あしたは学校だぞ、準備はいいのか」
「学校・・・」
「起きてくれニサ」
「ねむ・・・」
「大丈夫か」
「・・・」
「おい、おい、大丈夫か」
「・・」
「目を覚ましてくれ」
「・」
「お願いだから」

「お父さん、もうそろそろ退院できるの?」
「ああ、まだ完治とまではいかないが、お医者様がいいって」
「やったあ、また遊びにいこうね」
「いいぞお、どこへでも連れて行ってあげるぞ」
「うれしい、見てお父さん鳥も踊っているよ」
「本当だ。・・・お、メリッサの肩にのったぞ。かわいいなあ」
「本当。あ、うたいだしたよお父さん」
「本当にかわいいなあ」



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