第164期 #8

仮定化室


人は何かしら仮定して話すことが多い

『もし〜なら』『もし〜でも』

その謙虚な言葉には
大きな期待が詰め込まれている


「ねぇ、あの桜の木、もう少しで
花が散りそうね…。」

「ほんとだ…。」

風に揺られて踊る桜の花びらは
感動を覚えると共に寂しさを感じさせる

「もし…、また…。」

「こら、言わないって
約束したでしょう?」

「…うん。」

儚げに笑う君に
モヤモヤした気持ちを残したまま
その場を後にした


あの桜が散る頃
白に囲まれた君に会いに行った

そこには折りたたまれた一片の手紙と
桜の花びらが添えてあった

手紙を手に取り広げた

しばらくして
いくつもの雫が手紙に
染み込んでいく

『もし、また君と見れるなら…』


ほら、また君はそうやって
人に何かを残して去ってく

ずるい人だね



Copyright © 2016 藍蝶 / 編集: 短編