第164期 #2

私の叔父さん

 前世は王女だと聞いて母が笑うのが聞こえた。母はその侍女だと聞いて父と私は笑った。父はお侍だと聞いて母は黙っていたが私は笑った。
 叔父さんは前世なんか信じないと言った。私を見た占い師は叔父さんは王女の馬を世話していたと言った。叔父さんは馬に乗る人なので私は笑った。何度か勧められたが私は馬に乗らなかった。王女は馬に乗らなかったでしょうねと言うと、占い師は私にはわからないと言った。
 夏休みに写真洗浄のボランティアをした。一週間しかいなかったが、馬が写っている写真を三枚見つけた。夏休みの間中、叔父さんについて馬に乗る姿を見に行った。一度馬に乗ってみたが、股ずれがひどくてやめてしまった。母も私に同伴して、そこで母も馬に乗れることを知った。痛みに出かけるのが億劫になってからも、母だけ叔父さんについて馬に乗りに行った。
 夏休み最後の日曜日、仕事から帰った父は私を連れて居酒屋に入った。父はビールではないお酒を頼んで、私が食べるのを黙って眺めながら自分はお酒だけ飲んでいた。お父さんとお母さんは離婚することにしたとその時だけ私を見ないで父は言った。そんな気がしてたと、まったく気がついていなかった私は言った。
 シルバーウィークに、七海、日向子、萌絵、私のいつものグループで気の早い卒業旅行をしようという話になり、日向子がパスポートがないので国内かなとなり、萌絵が夏休みに行った酒々井のアウトレットで金欠だと言い出したので旅行はなくなった。私は私を見た占い師に私の友達を見てもらった。ファミレスに入って一人一人結果を報告すると、なんと全員王女なのだった。
 母の前で落馬して叔父さんは腕と脚の骨を折った。父から預かった果物を叔父さんが食べないというので切り分けたメロンを病室で一人で食べた。美姫ちゃんは僕の娘かもしれないと叔父さんは言った。そしてすぐに何でもない忘れてと言った。私は受験と卒業旅行でそのことを忘れた。卒業式直前の日曜日、叔父さんは母の前で馬に蹴られて亡くなった。私は卒業式の夜に叔父さんのお葬式に行った。
 父は半年前と同じ居酒屋で私に、離婚しないことになったと言ってビールを飲んだ。聞いてなかったが母が遅れてやって来て、父とビールを飲んだ。両親はにこにこしていた。私は黙って料理を食べた。



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