第164期 #19

両極端な人々

「それって、私の仕事なんですか?」と固定電話で話していたキミが言っていたのは、昨日の夜だった。
現在キミの小説を原作にした漫画に変なクレームが殺到しているというのだ。『服がダサい』『いつの時代のセンスなのか』と、画像特有のクレームだった。
キミの紡ぐ物語は大体季節が曖昧だ。夏に読んだら季節が夏のように思うし、冬に読めば冬の話のような気がする。つまり、そこまでしっかりキミの小説には季節が描かれていない。故に、服装までもしっかり描かれているわけではない。
電話口で論争をしているキミを横目にボクは、問題の連載漫画を見るために、山積みになった雑誌の中から1冊抜き出して、ページをめくる。
確かに上下ともに無地で、すっきりしたデザインの服が多いけど、そこまで服のセンスがどうこう言うようなレベルではないと思うのはボクだけか。
「私がちゃんと書かないからどうしていいかわかんないって……。服のデザインまで普通書かないでしょ」
確かに小説で服装のことまで事細かに書いてあったら、説明臭くて仕方ないと思う。
今日は花柄のワンピースなんだね、凄く似合っているよ、ってセリフで雰囲気が良く流れていくところにわざわざ、そのワンピースの丈がどうとか、花の大きさがどうとか、何の花が描かれているのかとか、何色の花なのかとか、そんな説明あったら萎えるって。
「いやいや、そこを想像で何とかするのが漫画家さんの腕の見せ所ではないんですか」とキミがうんざりした顔で、溜め息交じりに言っている。
でも、大体最後は「わかりました、なんとかします」とキミの一言で終了するのが常だった。
そして、電話を切った後悪態をつくのも常だ。
「あの漫画家、阿保じゃないの!! 流行は業界が作ってんだから、本屋で立ち読みして来たらわかるやろ!!」

そして、今日キミは大量の雑誌のページを捲りながら、いくつかに付箋を貼っている。仕事から帰ったボクは付箋の張られたページを黙って切り抜いて、付箋の色事に分けていく。最終的にキミはその切り抜きを宅配便で送り出した。

それから、数ヵ月が経った頃、キミがまたうんざりした顔をしながら電話しているのを見た。
「そうなるのはわかっていたでしょ? それをどうもしなかったのは、アナタの責任ですよ」と心底面倒くさそうにキミが言う。
今度は、急にオシャレになった。できるならなぜ始めからそうしなかったのか。と言う苦情が殺到しているという。



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