第164期 #17
しろやぎさんからお手紙着いた。
私はそれをじっと見つめる
住所に見覚えがない
ドッキリ?
そう考えると、あの換気扇の奥にカメラが仕掛けてあるような気がしてくる
大げさにリアクションすべき?
それとも、一蹴すべき?
わからない
わからないが、おいしそう
ごまドレッシングが合いそう
いや、そのままでも十分おいしそう
一口だけ食べておくのも、やぎ冥利に尽きる
くろやぎさんたらお手紙食べた。
予想をはるかに上回るおいしさ
すっかり飲み込んでおなかが満たされ冷静になって気づく
とりあえず読んでから、食べるべきだった
内容ぐらい確認すべきだった
しかたがないのでお手紙書いた
書こうとしたが筆が進まない
私に非がある
何よりもまず、一言謝らないといけない
けれど私にもプライドがある
見ず知らずのしろやぎにどうして謝らないといけないの
色々考えて私は、違うんですしろやぎさん、からはじめる
『違うんですしろやぎさん。お手紙を読まずに食べてしまい、その内容を知るために返事を書いているわけじゃありません。お手紙はおいしかった。あまりのおいしさに思わず意識が飛んで、前後の記憶がなくなってしまったんです。手紙の内容があやふやなんで、念のため教えてほしいです』
そして最後に茶目っ気を装って書き加えた
『さっきの手紙のご用事なあに』
くろやぎさんからお手紙着いた
俺はお手紙を書いた
電子メールが普及して久しいが、お手紙の方が思いが確実に伝わる気がした
お返事が来た
くろやぎさんはどう思っただろう
怖くて開けない
俺は繊細なしろやぎだ
繊細で陰気なやぎだ
やぎ以下だ
ひつじだ
しろひつじやぎたろうさんだ
略してしろやぎさんだ。
ダメな存在だ
くずだ
しろやぎさんたらお手紙食べた
自分の行動に驚いている
気づいたらお手紙食べてた
無意識に食べた
くずらしいことをしてやれとの命令に従った
なくなってから、お手紙の存在が重くなる
くろやぎさんはどう答えたのか
いやその答えより、あんなお手紙を書いた俺自身が許せない
そもそも昨日電車の中で見ただけ
俺の存在さえおそらく知らない
俺は愚かだ
くろやぎさんに謝罪したい
迷惑をかけてしまった
仕方がないので直接お会いして思いを説明しよう
くろやぎさん宅にやってきてチャイムを鳴らす
でてきた女は俺を見て少し首をかしげる
その無垢な面が俺に加虐の感情を芽生えさせる
すぐさまひつじの仮面を脱いで、しろやぎの仮面も脱いで、噛み付き血潮を吸い、骨ごと肉を食らう