第163期 #3

悪意にまけないでください

春がおとずれると、あたしは思い出したように先生にメールを送る。高校の、恩師。
水野先生はたくさんお世話になった担任の先生で、女性の先生。いまは担任をもっていないから楽です、とおっしゃっていたのは昨年で、だったら四月からまた学級を任されるのだろう。
あたしの恩師だけど、卒業してからもう三年も経つから、じつは、いまだに消息を送ることも、ちょっと気がひけている。
そんな数学科の準備室。放課後まで教室にのこる女の子たちの気配が遠くに聞こえる日に、あたしは先生を訪ねた。
「あたし、今年、就活なんです」と水野先生に打ちあけた。
「じゃあ、大変ね」先生はちいさくそう言った。あたしはうなずいた。先生はあたしのこわばった表情、黒にもどしたボブカット、膝においた握りこぶしを見つめた。うそ。あたしが見つめられていると感じてしまう。
そういう見られ方を、まなざしを、就活がはじまってまだ半月、あたしの内側はひしひしと積もらせている。それで先生にみられることにも過敏になってしまう。
先生は抽斗からクリアファイルを取りだした。あたしはそれを受けとった。
それは写真の束だった。そのすべてが生徒たちで、笑っている。女の子たちは笑顔が上手で、男子たちはちょっとぎこちなくて、でもどちらもかわいくて微笑ましい。あたしはこの知らない後輩たちを等身大の高校生だとおもう。当然、だけど。
教室で撮影された友達のあつまり、机に向かっていたり、体操服でソフトボールをしていたり、ストーブをかこんでいたり、文化祭の出店を準備している一風景だったり。
「あなた、懐かしいでしょう。佐々木さんはみんなと仲がよくて、中心にいたわ。屋台づくりを遅くまで話しあったり、卒業式の合唱も。おぼえているでしょう」
「おぼえています。クラスで、イベントぜんぶ、一生懸命やったほうが、楽しいと思って」
「あなたの後輩たちの女の子たちも、同じように団結して、ついこの間よ、卒業したわ」
「楽しそうなクラスですね」とあたしは言った。
「ええ。副担任をしましたけど、瞬く間の一年でした」
 水野先生はあたしからクリアファイルを受けとり、ふたたび抽斗にもどした。
「私は大学生の進路指導はわからないの。でも、あなたも、そしてあなたと同じように就職活動をしている子たちも、長く学校で過ごすなかで、社会で働くために必要な協調性を身につけていると知っています。だから礼儀と楽しさを忘れないで。そして、



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