第163期 #20
「ねぇ、珠里ってそういうの、好きなの?」と、後ろから声をかけられて振り返る。手はシフォンのワンピースの裾を握っている。
「好きって言うか、うまく体型をごまかせるから」と笑って理沙に言う。
「でも、珠里って体系を隠さないといけない?」と、理沙が伸ばしてきた手をさりげなくかわす。
「大学入ってから、運動不足で結構ヤバいんだって」
「隠したら余計にヤバくなるって言うじゃん。ちょっと出してみたら?」
苦笑いを浮かべる自分に、理沙が何気なく言い残して別の服を見に行った。
「露出したら、マジヤバいって……」
理沙との買い物から帰って、開口一番に呟いたのはそれだった。俺、男だから。露出する服なんて着たら、一発で男だってばれるから。と思うと、高校の時はよくばれなかったな、と不思議に思う。
別に好きで女装をしているわけではない。高校の時は、それなりに事情があって女装していただけで、高校を卒業するのと同時に女装からも卒業できるのだと思っていた。
それが、どういうわけか今もまだ続行されていることに溜め息をつくしかない。
玄関から脱衣所に直行して、着ていたものを全て脱ぎ捨てる。ウィッグを外すと、頭が随分と軽く涼しくなる。
洗面台からクレンジングオイルをひったくり、風呂場で化粧と匂いを洗い流す。
さっぱりして出てきたはずなのに、脱衣所に散乱した服を見て、再び気分が重くなる。
先程まで着ていたシフォンのブラウスやストッキングを洗濯ネットに入れて、洗濯機に入れる。自分の服を洗うのに、洗濯ネットが必要とは驚きだ。
洗濯機のスタートボタンを押して、着替えるためクローゼットを開ける。
正直、本当はそういう趣味があるのではないか、と疑ってしまいたくなるクローゼット。高校生の間は「制服」という便利なものがあって、それなりになんとかなっていたけれど、さすがに大学生になると「制服」なるものはなくて、自力でどうにかするしかなくなった。
1着、2着で何とかなるかと思っていたら、意外と何ともならないという事実にも出くわして、思いの他増えてしまっている。
「もういい加減、理沙のことを無理矢理にでも自分のモノにしてしまうか、きっぱり諦めてくれれば処分できるんだけど」
と、ひとりごちってクローゼットの中の衣装ケースから着替えを取り出す。
「いつまでこんなこと、続くんだ?」
見たくない現実から目を背けるように、俺はクローゼットの扉を閉めた。