第163期 #19

半身、あるいは半神

男は旅をしていた。なぜ旅をしているのか男にもわからなかった。男の体は半分しかなかった。

半身の男はある街に着いた。そこでは人々が忙しなく行き交っていて、声をかけても応えてくれそうにはなかった。半身の男は安堵した。
何を考えるでもなくじっとしていると、一人の少女が声をかけてきた。

「何をしているの?」

半身の男は応えた。

「何もしていないよ。いや、何もできないんだ、僕は」

「そう、なら私と同じね」

少女は笑った。半身の男はそんな少女の笑顔に心惹かれながらも、なんだかひどく悲しい気持ちになった。
それから半身の男は少女と過ごした。相変わらず街は冷たく、二人が何をせずとも勝手に時は過ぎていった。

ある時、少女が言った。

「私、あなたが好きだわ。私もあなたみたいになりたいの。どうすればそんなになっても生きていられるの?私には到底できそうにないわ」

半身の男は、少し泣きそうになりながら応えた。

「人はね、半分になったくらいじゃ死ねないんだ。少なくとも僕はそうだ」

「ふぅん。それなら、私を半分あげるわ。そのままでいるのは嫌でしょう?」

「ありがとう。だけど僕は今のままで十分なんだ。半分だけどね」

半身の男はなんだか満ち足りた気分になって眠りについた。





ーー男が目を覚ますと、隣で半分になった少女がねむっていた。男は冷たい街を後にした。



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