第163期 #13

悲しみのソーセージ

 そとは新学期が始まっているけど、きょうは日曜日で、がっこうは休みである。
 父さんと母さんは、学区のイベントで、朝からウォーキングに出かけていて、僕はうちに一人で、テレビの前に座って、体を揺らしながら、Jリーグの試合を見ている。

 僕はいつもゆめのなかで、レアルの10番で、ロナウドと2トップを組んでいて、小柄だけど無尽蔵のスタミナで、ライン・トゥ・ラインが信条で、弾丸・ドライブ・カミソリの三種類のシュートを駆使して、バルサにも勝って、リーガで優勝して、次のチャンピオンズリーグで、ユベントスやバイエルンと戦うのを楽しみにしている。

 僕はこの想像を、いつもしていて、授業の時も、囲碁・将棋クラブの時も、クラスメイトたちに苛められていた時も(ナマズって呼ばれるけど僕は決してナマズじゃない)、ずっと僕はゆめのなかで、色々な角度から、最高のシュートを決めていた。

 僕の体の揺れは波になって、共鳴して、増長して、遠心状に広がって、テレビに緊急地震速報が流れて、画面の中の選手たちが大きく横滑りして、地面に振り回されている。

 十年間、僕の家族だったコーギー犬のそっちんが、今年になって、老衰で死んだ。

 昨年の十月に、父さんと母さんと、にわに炭火鉢を出して、三人で焼肉をした。
 僕は自分のために最後まで取っておいた、大好きな二十センチを越えるソーセージを、網の上で丁寧に育てていて、ついにパンッと破裂して、箸で持ち上げようとしたら落として、下で待っていたそっちんが、ばくりと下に落ちたソーセージに噛み付いて、僕はそっちんの頭を押したけど、そっちんは噛み付いたまま動かなかった。

 僕はいつも、部屋の隅で寝ている太り気味のそっちんに向かって、「いなり、いなり」と呼ぶけど、そっちんは知らんぷりで、「米俵」と呼んでも、知らんぷりで、僕が揺れ始めても、そっちんは屁とも思ってなくて、僕は立ち上がって、そっちんの前まで行って、短い二本の前足を掴んで、ぐるりとひっくり返して、仰向けになったそっちんの白いおなかに顔を押し付けて、泣いていた。

 いつも僕の近くにいたそっちんは、もういない。
 お父さんお母さん、僕はまた、庭に炭火鉢を出して、あの時そっちんに食べられたソーセージを、三人で食べたい。

 外は新学期が始まっているけど、今日は日曜日で、学校は休みである。



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