第163期 #12

友情

飛行機雲が空を断ち切ってゆく。ある冷たい冬の日。空が別れるように俺たちは別れてしまった。この世に「絶対」なんてものは無い。無かったのだ。
なあ、そうだろ?あいつならば何と返すのだろうか。俺は声に出さずに友の名を呼ぶ。焼香を済ませ、煙草を吸いに外へ出た。煙は冷たい風に押し流され、出た瞬間に消えてゆく。こんなに儚いものだったのか。
あいつが光なら俺は影だった。光が無いなら影はどこに行けば良い?俺はどうすれば良い?無限に湧き出る問いかけに答える者はいない。もう、いない。
しなくてはならないことは山積みだと言うのに全く気力が出てこない。のろのろと携帯を懐から取り出す。あいつからのメールをもう一度見る。日付はあいつが死んだ日のもの。何もかもが静止している、そんな気がしてならない。
込み上げる虚しさはだんだんと怒りに変わった。警察は何も分かっちゃいない。俺があいつを殺すなんて、そんなことあるわけが無いんだ。影が光を殺すか?女性関係のトラブル?仕事関係のトラブル?そんな些末なもので俺たちを語るな!あいつは俺の相棒だ。それを殺すなんて、ありえない。分かっちゃいない。なあ、そうだろ?
不意に友の最後の顔を、声を、言葉を、思い出した。涙がこぼれる。あいつからのメールを一つずつ消してゆく。一通り作業を終え、立ち尽くす。新しい煙草を出そうとして残りが無いことに気付いた。仕方なくコンビニへ歩き出した。
これから俺はどうすれば良い?もはや明日のことすら分からない。光無きあと影はどうすれば良い?あいつはそんなこと言っちゃくれなかった。煙草なんてどうでも良い。恋愛なんてどうでもいい。仕事なんてどうでも良い。
空を見上げる。飛行機雲が伸びているが、空自体が別れているわけではない。俺たちの友情は変わらない。だが。俺は。どうすれば良いんだ。
どうしようもなくうなだれる。また、涙が落ちた。誰かが俺の前に立った。どうでも良い。どうせ警察だ。どうでも良い。何かを言っている。どうでも良い。俺たちのことを分かっちゃいないやつらなんぞ。
「自殺幇助の疑いで逮捕します」
手錠が掛けられた。何だ、ようやく分かったのか。そうさ、俺たちはいつも助け合う仲なんだ、殺すなんてありえない。
なあ、そうだろ?
それに答える声は無い。永遠に無かった。



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