第162期 #3

馬頭

その奇怪で妙に艶やかな生き物が、その鍛え上げられた臀部の筋肉が、その黒曜石にも似た暗黒の眼球が、その穢れ無き処女のような鬣が。

馬たちの乱雑なその走り方に親指は悲鳴を上げている。
せめて細長い筒状の檻が牧場であればと思う。
私の仕事は日に数万頭の馬が走り抜けるその頭を数える事だ。
走り抜ける物の数を数える為に造られた特殊な装置を駆使し、私はその装置に設置されたボタンを、馬の頭と同数押し続ける。
皆、私を変人扱いする。それもそうだろう。この仕事を始めて三年になる。
私は当初から動物が嫌いだし、馬などまったく見たくもない。変人扱いも出来ればされたくない。
だから私はその特殊な装置を思い切り馬に投げてつけておならをしてやるのが最終的な野望であり夢なのである。



Copyright © 2016 藤崎 / 編集: 短編