第162期 #14

息子の背中

「なにも、面白いことなんかない。」
中学一年生の息子は、そう言って本を読み始めた。
子供の貧困なんてことが新聞の片隅に書かれているが、まさしく私の家庭はそれである。
今の言葉でいえば「シングルマザー」
昔の言葉でいえば「やもめ」
世間様なんて、いつの時代にも冷たく厳しいものです。
本の世界にと逃げ込んでいる息子の背中に、別れた夫の背中を思い浮かべて、不快な気持ちにとなった。
はっきりと言って、私は息子を愛してはいない。
なんべく早く、部屋を出ていって欲しいと思っている。
1DKのマンションでの生活は、不幸と貧乏のつづれおりであった。
なにも解決せぬまま時間が流れて、親子の関係も変わり果てていき、そして他人にとなれたなら。
私は母親としてよりも、一人の女として終わりたいと思う。
例え子供を育てていても、子供を愛していない親もいるのだ。
息子の未来の事などは、考えたこともない。
しかし本を読む息子の背中を見るたび、粛々とした気持ちにとなってしまう。
あんがいに息子は、大物なのだろうかと、愚かな母親の勘違いの音ですね。



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