第160期 #9
「何してんの?」一応知ってるんだけど確認する。
「来週の合コンにきていく服、選んでんの」
鏡の前であれこれと服を合わせている彼女を見ながら、自分で淹れたインスタントコーヒーを啜る。
彼女の部屋に入った時には既にベッドのみならず床にまで服が広がっていた。別に何着てても可愛いと思うけど、と思うのは彼女に対して好意があるせいだろうか。
これ以上彼女の部屋に入れないので、俺は仕方なく流し台にもたれている。
部屋に散乱している服の数々を見ながら、あれは先月の合コンで見た、とか、あれは2週間前の合コンで見た、とか、あれとあれはいついつの合コンで見た、とか思い出せるあたり、自分は相当危ない域に到達しているのだろうと思う。
「あぁ、もうやっぱり買いに行こうかな」と彼女が呟いたから、「どれでもいいじゃん」って言ってから、しまった、と思う。
「そっちはなんでもいいかもしれませんが、こっちはそういうわけにはいかないんです!!」
キッと睨みつけられて、「それはどうもスミマセン」と適当に謝っておく。
男は別にいつも同じ服装でいいかもしれないけど、女はそういうわけにはいかないということらしい。
合コンに行くのに可愛く見せるのは当然のこと。更に女同士の見栄、というのもそこには存在するらしい。差別化、ってことだろうか?
また始めから合わせ始める彼女を何回か見たところで、彼女が俺に声をかけてきた。
「ねぇ、どれが好き?」
「そんなん、何も着てないほうが男は好みなんじゃないの」ってウンザリして答えたら、「はぁ?」って睨まれた。いや、そんな顔されても本当のことだし……。
「スミマセンね」と呟いて、俺はわずかに残った冷めきったコーヒーを流し込んで、カップを流しに置く。
「っていうか、お前合コンでどんなヤツ、引っかけてきたいわけ?」
「どんなヤツって……」
俯いてモゴモゴ言い始めた彼女を見て、軽く溜め息をつく。
服が散らばった床を、服を踏まないようにして歩いて適当にブラウスとスカートを取り上げて、彼女に「はい」って押し付ける。
「それで行けばいいじゃん」
合コンはどういうわけか清楚なイメージが男ウケするでしょ? 実際そんな清楚な女性なんていないのにさ。所詮男も合コンに何か夢を見ているということか。
合コン当日。いつもの通り彼女と向き合ってお互い他人のふりをする。
さっと見渡してどこに女の見栄があるのだろう、と思う。皆さんの服装、似たり寄ったりじゃん。