第160期 #6

生まれ変わり

 彼女の家に向かう道中、僕は石に躓いた。まともに歩くこともできない自分が、何だかひどく惨めに思えてきて、情けない気持ちが胸に充満した。急激に自信が消え失せていった。
 躓いて体勢を崩した拍子に、僕の左胸から、意志がころりとこぼれ落ちた。僕の意志はぱらぱらと砕けて、無数に転がる路傍の石の一つにひゅるりと憑依した。意志をもった石はふわりと浮かび上がった。ゆらゆらと空中を漂いながら様々にその形を変え、最終的には先端の鋭く尖ったナイフのような形になった。そして、ごつんと鈍い音を立てて僕の足元に転がった。僕はわけが分からぬまま、それを拾い上げ、柄の部分をぎゅっと掴んだ。気づくと、刃先は僕の胸に向いていた。いつの間にか、不甲斐ない自分を責める気持ちが胸の多くを占拠していた。死んでしまえばいいとさえ感じて、そのまますっと目を閉じた。瞼の裏に、彼女の笑顔が浮かんで消えた。直後、僕の意志は、硬く尖った石に宿ったまま、元あった場所へと一直線に戻った。ぐさりと勢いよく、僕の心臓を、意志が貫いた……。
 臆病な僕は死んだ。そして僕は生まれ変わった。彼女の家に向かう。微塵の迷いもなく、自信に満ちた足取りで歩いた。震えているのは脚ではない。強固な意志は胸に突き刺さったまま、僕の心を奮わせている。



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