第160期 #11

紅い花

 男と同居を始めた。醜いわたしに綺麗だ綺麗だを繰り返す男。悪くない。
 その直後、皮膚に紅い丸が出現した。湿疹かと思ったがかゆくない。けれども全身くまなく現れている。
 気持ち悪いので病院に行った。医師は悪いものではないと言う。取るにはすべての皮膚をはがす手術になるので、時間とお金がかかるらしい。わたしの収入でカバーできる金額ではなかったので、諦めた。
 夢にこびとが現れた。今日もあなたは良いことをしましたね。その印に花丸をあげましょう。
 朝起きると、全身の紅丸が花丸になっていた。夏だというのに半袖の服も着られないし、何より花丸だらけの顔がいつも以上に醜い。醜くて醜くて自身が憎いほどだ。鬱々とした日々を数日過ごした挙げ句、わたしは同居人と相談して再度病院に行き、手術の同意書にサインをした。
 夢にこびとと同居人が現れた。よかったね、よかったね。これであなたの恋人は美しく生まれ変われるよ。よかったね。もうあの醜い顔を見ずに済むよ。よかったね、よかったね。
 わたしは入院中の病院を抜け出して自宅に戻り、同居人の頭に陶器の置物を振り下ろした。同居人の頭には紅い花が咲いた。美しい深紅の花。わたしの皮膚の花丸は消えた。
 わたしは割れた置物を両手に抱えたまま笑った。明日、あらためて病院に行って、手術は断ることにする。



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