第16期 #5

子供への偏見

一人の子供が、どこかへ向かって走っていた――――それも、腐敗したような悪臭が、
空気になりすまして漂う街を。
上空の雲は、怖ろしいほど速く流れる。
すべてが高速で過ぎて行く。
途中、少し苦しげなようすを見せたが、私たちは知っている。
それは単なる誤魔化しに過ぎないのである。

やがてひっそりと立ち止まる。どうやら街を抜け出したらしい。
呼吸をととのえ、川辺で手をすすぎだす。
楽しみといえば、これくらいのものだろう――――肩にかけた小さな鞄から、林檎を一つとりだした。
たくさんあったはずの林檎が、もうすでに、一つだけ。

これが、どうして不幸なはずがあろうか?
林檎はとても甘いのだ。
さらに、一つだけあることのよろこびといったら!



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