第159期 #8
くく。これ本当の話なんですよ。と、始まるのは怪談の常套パターン。
夕刻の河川敷。犬を散歩させるシルエットが遥かに見える。私は落ちていた野球ボールを拾い上げ、柄にもなく投球のまねごとをした。ボールは不自然に高く弧を描き、目標にしていた場所よりもかなり手前に力なくバウンドした。バウンドを終えたボールは闇にかき消されたまま転がり、思うような存在感も示さずに止まった。甲子園しししししししししししししししししししししししししししししししし四。けけけ。
雪が積もっている。河川敷のベンチには老人が座っている。私はふと立ち止まって考え込む。雪に足あとはない。では、どうやって老人はベンチまで歩いたのか。仮に老人が座ってから雪が積もったのなら、老人自体にも雪がかかっているはずではないか。そもそもこんな寒い日にベンチに長時間座っているのはおかしいのでは?
「貴方にも見えましたね」
犬を連れたシルエットが今度は私の隣でささやくように言う。犬は吠えずにただ、ベンチの方を向いている。横目でシルエットを確認しようとしたが、案外、視野の外にいて捉えられない。自分の足もとに目をやると、背中から照らしていた陽の影が私の足下から生えていた。当然シルエットの影もあるだろうと隣を見るが、犬の影はあるものの、シルエットの影はどこにも見当たらない。ただ、足下だけはシルエットとして確認できる。そこからベンチに視線を戻すと、もう老人はそこにはいなかった。やはりと言うか、雪も降ってはいないし、シルエットは遥かにある。
雑誌の懸賞で当たった「霊感テストパッチ」を貼っているとそんなことが頻繁に起きた。それほど恐怖は感じなかったから、六枚あるうちの三枚はすぐに使った。何度でもいいのかと、一度剥がしたパッチを再び貼っても効果は得られなかった。友達に一枚あげたけれど、その子は鈍感なのか、次の日、何もなかったよと言っただけである。
年末、大掃除でパッチが出てきて、一年くらい前のそんな体験を思い出した。私は久々にパッチを腕に貼った。掃除を中断して、ベッドに寝転がり、パッチの箱を透かすように眺める。箱の裏には小さく「稲川淳一監修第二弾」と書いてある。
外には珍しく雪が舞っていた。時計を見ると既に二十二時を過ぎている。箱の中身を見ると、パッチは二枚残っていたから、明日、友達に一枚あげようと思っているうちにどうやら寝てしまったようだ。