第158期 #12

夜に考えてみること

夜の底にある時空の歪みについて考えてみたいのです。あるいは夜の底なんてものは存在しないかもしれない。なぜなら夜は永遠に続いてはくれないから。まあそれはいい。時空の歪みの話。本当に何処かへゆける気がしませんか? 強く強く願えば、真っ暗な夜の不思議な引力があなたを違う世界へ連れていってくれる。たとえばあなた。毎晩、毛布にくるまってつらさを噛み殺していますね。いえ、あなたの悩みを聞く気はありませんよ。ただ勧めているだけです。あなたが願うなら、そうですね……。1622年のアルプスの牧童、といったところでしょうか。少し具体的すぎましたかね。あるいはそれに準ずる何か。いざ時空の歪みをくぐり抜けたときに牧童ではなくても文句は言わないで下さいね。自我が強い人は自分のまま時空の歪みを通り抜ける場合もありますから、まあ蓋を開けてみないとわからないということですよ。
……、そうそう、そうだった、あなたに勧めたいのは強く願ってみなさい、ということなのです。自分が夜の底だと思う時と場所でね。ただし、生き方を変えないとその辛さは除かれないかもしれない、とだけ言っておきましょう。解りますか? まあ、今はいい。とにかく、伝えましたのでね。

夜は何も見えないから何処へでもゆける。
1978年の田舎へ、1752年のアメリカへ、紀元前9000年の大森林や洞穴へ、2109年のあなたのものだった町へ、何処へでも。



Copyright © 2015 吉下左眄 / 編集: 短編