第157期 #7

包み

 俺は、自分の住むアパートからなるべく遠い、それも、今までに行ったこともないコンビニを探していた。理想を言えば市外が良かったんだが、そういった目的が逆に場所を特定する要素にもなると思ったのでそれはやめ、目的を持たないためにも、ラジオから流れてくる普段聞かない情報番組が終わるまでひたすら走り続けた先にあるコンビニに捨てることにした。
 たどり着いた先にあったコンビニに捨てた俺は、ナビの道案内に頼り帰ることにした。ナビに頼らないことももちろん考えたさ。ただ、ナビに頼らず、俺自身が道を探しながら帰ってしまうと、道標などの記憶が何かの拍子に思い出される場合も考えられる。そうなるとまずい。だから、機械的にナビに任せて俺はただその指示に従い、最後はルートを消去することにしたんだ。これで、捨てたコンビニを特定することは難しくなる。ナビの指示に従い、俺はそれ以上何も考えない。不必要に景色などを見て、場所を判断することもできるだけ避ける。帰りのルートは複数に分割する。ルート毎の目的地は大手四社のコンビニとし、それらをランダムに選択することも忘れないでおこう。その際、最短コースだけではなく、遠回りのコースもルートに含めよう。コンビニからコンビニへとルートを設定して、その都度、使用したルートは消去しながら帰る。そういった回りくどい方法を使い、三時間かけた俺は最後のコンビニで缶ビールを買った。
 しかし、一体、どうなってるんだ。あまりの動揺に俺は、あたふたしながら車のドアを閉めた。会社を出てから既に六時間は経過している。ということは、俺が包みを捨てたことは時間的に考えても間違いはない。辺りはすっかり暗くなっていたが、全ては順調のように思われた。これでやっかいなものは消え去った。何事もなかったんだ。捨てたという記憶さえ忘れてしまえば。そして、日々を平穏に過ごそう。そう思った矢先だった。
 包みは確実に捨てたはずである。今のはきっと見間違いに決まっている。ここにあの包みがあるはずないではないか。馬鹿げてるよ。そう、長旅の疲れのせいだよ。時間をかけて深呼吸を繰り返し、気を取り直した俺はもう一度車のドアを開けた。でも、そこにはやはり包みがあった。包みは捨てたはずである。けれども、包みはそこにあり、しかも、指が一本入るくらいの大きさで端がやぶれているではないか。これはまずいと思い、俺は再びドアを閉めた。



Copyright © 2015 岩西 健治 / 編集: 短編