第157期 #8

牢の幻燈

 刑務所に入る夢をみた。正確には、最寄りにある警察が抱える留置所に入る夢である。夕方だった。俺は、神山さんの家の廊下をパタパタ早足になって半ば走り、刑務所へ行く用意を着々と進めていた。なにか、神山氏の家の廊下を通らねば外へは行けないような雰囲気があり、当然のように俺は走り通っていた。俺は行く前に(神山氏の家の廊下を通る以前に)、母親から、行き用の小遣いを少々貰っといた。
 俺は警察へ行く罪状がわからないが、相応に軽いという事は知っていた。又俺は、一度、その留置所へは以前に一度行った気がした。同じく罪状は偶然覚えてないが、軽いものだったように思える。父親が、神山氏の家を通って家を出る直前の俺に声をかけた。自分も途中まで見送る為にか、行きたいと言う風だったが、刑務所(留置所)とわかると、例え留まるのが一日だとしても顔色変えて「自分も行く」という案は引っ込めた。ただやはり、いつものように俺を心配してくれている様だった。俺はその際でも父親に、「金は、母親が落とした幾らかをただ拾っただけで、それを知った母親が自分に改めて何千円か持たせてくれただけやで」等と、嘘をついていた。又俺は、手にした金を数えながらその自分の手に、オレンジ色した超合金の様な関節まできちんと守り得る小手の様なものしていた。
 又、話は跳ぶが、嘘をつくつながりで、俺は大がに居り、西田房子がとりあえず束ねる(発表)会のようなものに参加していた。その会でも、「佐尾くんは元慶應の出身?」との敢えて疑問にしなかった西田への応えとして俺は「周りの目」を気にしてしまい、「いえ、僕は早稲田ですけど」などと澄まし顔で学歴詐称をしていた。

 この夢をみたあと、俺はトイレへ行くのに階下へ下りた。階下へ下り切った時、母親が俺を呼ぶ叫びが聞こえた様な気がした。俺は、父親の身に何かあったのか、とかなり不安になったものであった。



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