第157期 #18
『働けど働けど なお わが暮らし楽にならざり ぢっと手を見る』
石川啄木 歌集 『一握の砂』より
夕闇と雨と空の下、男が走る
生気を失った顔で、走っている
世の不況、好転したというが
未だリストラの波は絶えず
その身に降りかかった男は
なすすべもなく、溺れた
男は愚かだった
首切られ、蓄えもなく
家で待つ女も愚者だった
夫をあざけり、罵った
やがて男は走るの止める
夜に咲く花のような笑みを浮かべ
やがて男は帰るだろう
妻のいる家へと
やがて男は帰るだろう
首にあざの残る、小便にまみれた女の元へ
夕闇の雨と空の下
男は笑顔で、ぢっと手を見ていた……