第156期 #8
【愛してる】
冷えた愛撫だと思った。
必要な場所だけを執拗に求める身勝手な行為だと思った。
彼にとっては、グラスに結露した水滴を拭う程度の煩わしさの欲望。
ボールペンを使う為のノックに、それ以上の意味を見出だせないのと同じで、受け入れる事しか出来ない私は自分自身で浄化させて信じるだけ。
けれどもそれは、無理やりに与えられたり奪われたりするのとは違っていて、酷く疲れる。
刺激だけで吐き出す事が出来るように成れれば救われるかも知れないけれど、それは無理だと知っている。
私は私だけの為に生きているのだから、それがどれ程優しくても彼に差し出すものなど何もない。
呻いても、喘いでも、叫んでも、全ては私の為だ。
愛してる?と何度訊いても、彼は私と同化したりなどしないし、共に感じる事があっても、共に信じる事は出来ない。
詰まり、結局は彼の指先が喉元を撫でていて、私はグルグルと喉を鳴らしているだけの現象。