# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | マックの女子高生 | ゐつぺゐ | 964 |
2 | 落下 | 眞山 | 554 |
3 | ティータイムに望むのは平穏 | 桜 眞也 | 1000 |
4 | 私しといふ存在 | 波留乃月夜 | 471 |
5 | 雨と友達 | しょしー | 291 |
6 | くらがり | 屑鉄雄 | 947 |
7 | いくところ | たなかなつみ | 627 |
8 | 春恋珈琲 | 宮原 飛鳥 | 999 |
9 | 親友 | 弥生 灯火 | 360 |
10 | 銀座、仁坐、華坐 | Gene Yosh (吉田 仁) | 1000 |
11 | カピバラ、再生 | 小松 光一 | 995 |
12 | 腕のない男 | 岩西 健治 | 973 |
13 | 大人になったら何になりたい? | 池田 瑛 | 999 |
14 | とある天使、二人の会話 | しま | 969 |
15 | 親父 | 斎藤詩音 | 444 |
16 | 山の婚礼 | 三浦 | 1000 |
17 | 飛行機雲、追いかけて | 帆 | 733 |
18 | 同じ阿呆でも踊りません子 | なゆら | 731 |
19 | りんご飴 | わがまま娘 | 994 |
20 | 図書委員長 | qbc | 1000 |
俺、朝から朝マック。朝だから朝マック。ソーセージマフィン。食べる。ホットコーヒー。Sサイズ。飲む。隣の席。女子高生。なんか喋ってる。
「マジ、ありえなくない!?」
「かもね」
「だよね!あたしたちの祖先がチンパンだったつうならさ、え?何?私たちは元々チンパンなわけじゃん?」
「だね」
「でさ、チンパンだったのに突然か徐々にか知んないけどさ、進化?して家建てたりユニクロで服買ったり、テレビでゲーノー人とかやっちゃってるわけじゃん?」
「ユニクロいいよね」
「その前は海の中で生命的に発展して、地上に上がってきたって話もあるけどさ。いくら便利を求めたからって魚に手足が生えるかね?じゃ何?あたしらも念じれば何世代かあとの子々孫々にはもう一本でも手足が生えるわけ?それアシュラマンじゃん!くっそウケるわ」
「アシュラバスター強いよね」
「だけどさチンパンとあたしらの遺伝子の違いって結局何%くらいあんのって話じゃん。遺伝子1%相当だけでも約3200万対のDNA塩基があってだよ。それが偶然の重なり合いでチンパンからあたしらに構造変化を起こしたんですなんつう説が通るんじゃさ全部偶然でしたありがとうございますじゃん!んなこと言ったらこのハンバーガーも偶然の出来事から進化を遂げて今じゃなんとアイドルグループでステージのセンター張ってますとか調子乗りかねなくね?」
「ハンバーガーアイドルならぬアイドルハンバーガーね。ハンバーガーキッド」
「つまりさ、進化とか語っちゃってるけどさ、チンパンから人になったことが証明されようがされまいが、今のあたしらお構いなしに朝マックしてるんだよね。陸地にエサを求めてきたとか言ってるあたしらの祖先がフィレオフィッシュになっちゃってるのすげーやるせないわけ」
「食うけどね」
「タルタル絶妙だけどさ。そりゃくら寿司もいくよ。てことはさあたしらが魚だった時のままのがあたしらは幸せだったんじゃないかってこと。つまり生の発展を求めて死への頻度が上がってしまったことを不幸とするなら足とか伸ばさずに海で優雅にやってりゃ良かったんだよ。サメに食われるかも知んないけどさ、少なくともフィレオフィッシュはしてねーよな」
「今度は生き伸びろよ。ガブッ」
彼女たちはその後生まれ変わりの話に発展していった。俺は聞き耳立てすぎて仕事に遅刻した。
月の輪郭がぶよぶよと震え、ぽたりとビルの影に落ちていった。葉先から滴り落ちる露のようだった。
三日前から風邪をこじらせ、高熱に魘され夜中に目を覚ました私は、たまたまその一連を窓から見ていた。いよいよ幻覚までと思ったが、目を凝らしてみても先程まで夜空に浮かんでいた月がどこにも見当たらない。実際に消えている。汗で額に貼りつく前髪の不快さからしてこれが夢という訳ではない。
何かが狂ってしまったのだ。何かが壊れてしまったのだ。風邪とは違う寒気を感じ、私は布団の中で震えていた。
次の晩、体調は酷くなる一方ではあったが私は布団を抜け出し、月が再び昇ることを願いながら東の空を見ていた。家々の影から何かが昇ってくるのが見えた。私はひどく安堵したが、上昇するにつれそれは月ではない別の何かだとわかった。
それはトレンチコートを着た男だった。顔を上にして浮かんでいるので人相や表情はわからない。手足を虫のように不自然に曲げ、背中にはナイフが刺さっている。そのナイフを中心に、トレンチコートに赤い染みが広がっている。男の刺殺体が夜空をゆっくりと弧を描いて移動している。月と同じ軌道で。
「勿体ない」
振り返ると、蛍光灯の光をシャーベットのようにスプーンで掬い、しゃりしゃりと食べている赤い兎がソファの上にいる。
「60W」
郵便受けに何か落ちる音で目が覚めた。眠い目を擦りながら蓋を開けると、溜まった広告の中に黒々とした塊が鎮座していて、手に取るとそれが拳銃だとすぐに理解した。困ったが、誰が入れたのかも検討つかないのでとりあえず家に持って入ることにした。朝食を摂りながらこの拳銃をどうするか考えたが特に思いつかなかったのでなんとなくこれを持って街に行こうと思いバックに入れた。歩くたびに背中にあたるものが鬱陶しかったが、妙な安心感も同時に感じる。そんなことを考えながら公園の前を通ると新田が居た。中学の時の同級生だった彼はリュックを背負ったまま水を貪り飲んでいてとてつもない気迫を感じた。話しかけると彼も一瞬懐かしむような顔してすぐ久しぶりだなと言った。そうだ、新田を拳銃で脅してみよう。彼はバックに手を滑り込ませ一気に拳銃を新田に突きつけた。これ拾ったんだ、と言うと新田の顔が激変し彼の拳銃を払いのけ自らもリュックに手を伸ばし何やら黒い塊を取り出した。黒い塊から爆発音が響く。幸い肩を擦れただけの軽傷で済んだが、状況は飲み込めない。新田は目が充血し、息が切れている。そして彼は叫んだ。岡藤もやっぱ持ってたか、拳銃。新田の声はよく響いたが岡藤の耳には入らず、己の拳銃の引き金を引いた。新田の脚から鮮血が噴出し周囲を染める。新田の悲痛な声を無視し岡藤は自宅へ走っていった。
家に着き、郵便受けを確認すると、真新しい紙が入っていた。『全国民に告ぐ。近年の凶悪犯罪の増加に伴い武器を支給する。今日からは自分で自分の身を守るように。』赤いゴシック体で記された何とも無慈悲なその文を見つめながら呆然としていると、直近くで銃声が聞こえた。振り向くと、また聞こえる。また、また、また。近くで聞こえる冷徹な爆発音。立て続けに感じる生命の危険に群集はパニックになり誰かが防衛本能に逆らえず引き金を引けば。もう、止まらない。どうしようも無いので家に入り、お湯を沸かした。棚から親戚に貰ったクッキーを取り出し小さい皿に5,6枚盛り付け、テーブルに置く。沸騰したお湯をティーバックと共にカップに入れると紅茶の良い香りが匂ってきた。琥珀色の液体を一口飲み窓から外を見やると、家の前の道路で男女が揉めている。男が女を打ち殺すとこちらに気づき、近づいてくる。もう一口、紅茶を啜り、クッキーを齧る。最後のティータイムは、非常に騒がしいものになってしまった。
私しといふ存在は……
孤高の哲学者・アージュは言った。
私しはなぜ私しなのか…
この問いを説いたものは一人もいない。
神を信ずる者達ですら説ける訳がない。
説けるはずもないだろう。
アダムとイブが禁断の…
そんなの誰が作ったかも分からないお伽噺だ。
自分がなんのために産まれ、なんのために生きて、なんのために死ぬのか。
そんなの誰にも分からない。
アージュは言った。
私しは、私しの人生全てを賭け、この問いを説いてみせる……と。
が、答などあるはずもない。
イエス・キリスト
神の化身と呼ばれた男。
人々は彼を崇め、称え、そして崇拝した。
が最後にどうなったか。
人々の犯した罪を、自らが自害することにより浄化させた。
そんなの作り話だ。
イエス・キリストは、信頼していた弟子に裏切られ、そして殺された。
こう聞くとキリストなんてちっぽけな存在だろう?
神は、人間が創った都合のいい人形でしかない。
じゃあ私しは何者なのか。
誰によって創られたのか。
そして私しはなぜ私しという存在なのか…
アージュは答の導き出せないまま死んでいった……こう書き残し………………。
-ワタクシトイフソンザイハ-
「雨は嫌いだな」
ざあざあ、
「…何故だ。」
ざあざあ、
「雨は、あの日を思い出す。」
ざあざあ、
「あの日、とは?」
ざあざあ、
「なんだと思う?」
ざあざあ、
「…分からない。」
「それはね、」
女がこちらを振り返った。
口角が歪に上がる。
「大切なオトモダチを殺した日、だから。」
「そうか。」
「…驚かないんだね」
ゆっくりと女の隣に立った。
「俺は雨が好きだよ。」
ざあざあ、
「どうして?」
ざあざあ、
「雨が存在する限り、忘れないから。」
「…?」
「おれをころしたおまえを、わすれないから。」
横を見れば、驚愕で目を見開く女が見えた。
忘れたなんて言わせないよ。
ねぇ、どうしてころしたの。なにが原因だ?
ねぇ、寂しいよ。
夕方、大手町で乗車したベビーカーには赤ん坊がいなかった。座席は帰途につく燃えがらの人々でいっぱいで、だれもその親子に気がつかないようだった。からの乳母車をおした母親のあとに、赤ん坊を抱きかかえる父親が見えて、ぼくはすぐに席を立ったけれど、ぼくのことは見えていないようで、二人は電車が動き始めても立ったままだった。
夫婦は一言も発しなかった。父親は地下鉄の黒い窓を見ていた……彼自身と子供の丸い尻と奥さんの横顔が映っているだけの鏡のようなもの、絶え間なくトンネル内の蛍光灯が筋を作る。母親は、父親の肩にふくふくとした柔らかそうな頬をのせて眠る、子供の顔を見ていた。それは儀式なようなものだから、二人はなにかを見ているようでなにも見ていなかった。儀式のようなもの。夫婦は喪服だった。
母親が、ぼくが立って空いた席に気づいて、まるで最初からだれもいなかったようなかんじで、「座んなさいよ」と夫に言った。「座りなよ」と夫が言った。それ限りで、二人とも座らなかった。
突然、子供が目を覚まして、泣きはじめると、車内の停滞した空気がすぐに不穏なかんじで充満した。すべての人が親子をにらんでいた。ぼくは面接担当の目を思い出した。
子供を抱きあげて、母親がなんとかあやそうとするが泣き止まないのを、夫はじっと見つめていた。揺れる電車。なぜ泣いているのかは、実は親にもよくわからないのだった。ぼくが降りる駅に着いたときにも、子供がぴたりと泣き止むことはなかった。
エスカレーターでぼくのすぐまえに、小学三年生くらいの男子三人がいた。
「お前、子供がどうやってできるか知らないの?」やせた背の高いやつがいった。
「知らないよ、そんなこと」太った背の低い男の子が、恥ずかしそうに言った。
「しかたないな、教えてやるよ。まず、男性器を……」
その日の夜中、うなされて目を覚ました。吐き気をもよおして、便所に歩いていくと、アパートの床、天井、壁、ぼくの手や体のなかに、平然と鎮座して、古い思い出のふりをしている悪夢が、たったさっき見ていたはずの悪夢が、にじみだすように思い出された。
電気を消した部屋のベッドのうえで、喪服のままで抱き合う夫婦の愛情を、くらがりのなかから、そっと、静かにたたずんで、見ているぼく、そんな夢。
死神はおもむろに手帳を開き、私の名前を書き記した。何かやり残したことはあるかと問われ、私もおもむろに自身の手帳を開いた。やるべきことは手帳の中に数多く記されていた。片づけるべき仕事。読むべき本。行くべき講演会。飲むべき薬。通帳記入。家賃の振り込み。洗濯。掃除。
死神は私の手帳を覗き込み、鼻白んだ顔をした。情けない奴だな。今生の別れだというのに、会うべき人のひとりもいないのか。
いない、と私は答えた。いや、ひとりいる。ここに記されていない人。私の住所録に記されていない人。その顔も名前も私の知らない人。
私が心から愛することができたかどうかすらわからなかったニンゲン。
向こうへ行けば会えるのでしょうか。そう問うと、死神は、さあな、と答えた。あちらは広いからな。こことは比べものにならないぐらい広い。何層にも見えないままに重なって、そして、流れている。形なく。
そうであるならば、と私は思った。私のやり残したことは、ただのひとつでありましょう。
会社に電話をさせてください、と私は言った。ひと言もなく消えるのは気が引けるので。
好きにするがいいさ、と死神は言った。私は電話をかけた。電話はつながらなかった。つながるはずがなかった。気づくと私は茫洋とした世界に形なくひとりたたずんでいた。向こうのほうに霞のような淀みが見えた。
そうであるならば、と私は思った。私のやるべきことは、ただのひとつでありましょう。
私は流れ始めた。霞は薄光のなか瞬いていた。
腫れものに触るように俺を見るな。
ただ言いたいことはこれだけだった。
昨日、みんなの前でクラスの目立たない地味な子、相良彩に告白してしまった。
二月の中盤、寒い日だった。早く春が来ないかななんて考えながら高校に向かっていた。その日は何故か電車が遅延していた。寒い中ただ待つのも嫌だったので缶コーヒーを買って飲んでいた。電車を並んで待っていたらクラスメートもたくさん並んで待っていた。まあ特にクラスに友達がいるわけではないので挨拶だけだった。
そう思い一人並んで待っていると隣に相良さんが立っていた。なぜだろう、その日は不思議と勇気が湧いてきた。だから声をかけてしまったのだ。
「おはよう。寒いね。」
普段ならおはようだけで済ませてしまうのに一言付け足してしまったのだ。
「おはよう。ね、早く春にならないかな。何飲んでいるの?」
「コーヒーだよ。好き?」
「大好き。あれ?そのメーカー新しいコーヒー出したんだ。」
「らしいね。ちょっと飲む?」
「いいの、ありがとう。・・・・でも間接キスだよ。平気?」
「うん。平気。相良さんなら平気。」
「・・・それって、そういう意味?」
「え?」
後ろから声が聞こえた。
「朝から告白なんてすごいぞ。」
驚いた。特にそういった意味はなかったのだ。
「いや、特にそういった意味ではなくて。ただ間接とか気にしないよって意味なのですが。」
そう言った時、相良さんは顔を赤くして泣きそうになっていた。
「でも、前からあなたが好きでした。」
さっきまで騒がしかった駅が一気に静まり返った。相良さんは驚いた顔をしている。あれ、俺間違ったことをしてしまったのか。そんなことを考えていると急に恥ずかしくなってきた。気づいたときには駅を走っていた。家まで全速力で駆け抜けた。
そして今日である。流石に二日続けて学校を休むわけにはいかないので登校したがこれだ。別にすることがないので休み時間は寝たふりをしていた。
終業のチャイムが鳴った。逃げるように学校を出た。
そして、最寄り駅に着いた。これからずっとこんな生活を余儀なく送るのかと考えるとため息がでた。歩いていると後ろから相良さんが走ってきた。
「あの、今日休み時間ずっと寝てたでしょ。それならこれどうぞ。」
缶コーヒーを渡された。
「あ、昨日の返事はこれでいいかな。」
缶コーヒーを取り上げられて、開けられ、飲まれ、残りは渡された。
コーヒーは甘い恋の味がした。
そろそろ春が来たようだ。
沈む夕陽を背に、街には終末的な光景が広がっていた。
私が見渡す限り一面の人だかり。動くもの。うごめくもの。
自分の通学路である街にゾンビが溢れるなんて、まるでホラー映画みたい。
悲鳴がそこら中から聞こえてくる。舞う血飛沫が景色を紅に染めていく。
雑居ビルから地下鉄の階段から、ゾンビになった人達がわらわらと出てきては次々と通行人におどりかかる。
襲われた人は頭からゾンビに食べられて…… むしゃむしゃ、ごくり。
「亜美!」
混乱の中で立ち尽くす私を、友達の絵美が見つけてくれた。
「早くこっちに!」
絵美が叫びながら私の手を握り、路地裏へと引っ張る。
「良かった、無事で本当に良かった……」
涙で顔をくしゃくしゃにした絵美が安心するように笑った。
うん、私も嬉しいよ。だって……
絵美があまりにも美味しそうに見えるんだもの。
8月の気温が35度が当り前になって20年ほど、10年前に40度を記録したことがあった。小学生の頃、日本は温帯と習ったが、完全に亜熱帯に、冬も零下になる日があると、その寒暖の差は50度にもおよび、機械工業品の性能試験の稼働温度帯の実験の様であります。永久凍土の極寒の地と、広大な砂漠の灼熱の土地の融合で、益々人間は弱っていくのではないか。
この真夏に涼を取る。銀座で一番近い花火大会は東京湾大華火大会、晴海、日の出、新豊洲に囲まれた海上台座から発射される12000発に70万人が湾岸の各所には恋人、家族連れがあふれます。真夏の夜の涼しさは全くなく、汗まみれの2時間を炎天下ならぬ、湿気の無風状態のなか、これまた地獄であります。一番の涼を取れるのは、新交通「ゆりかもめ」に陣取り、涼しい車内から鑑賞するこれでしょう。一日乗車券を買って、昼間からお台場あたりを散策しながら夕刻を待つ、決してぎりぎりに新橋、豊洲に駆けつけないように、大混雑に乗車まで1時間待ちで並んでいる間に始まってしまします。
銀座の娘たちも中央区内にお住いが多いので、レインボーブリッジ越しに鑑賞できるスポットがあるようで、こちらも大混雑、さらにベイエリアのホテル高層階はまさにプレミアム、プラチナシートを販売しております。あとは屋形船の食事をしながらの鑑賞、お台場海岸あたりに船だまりができて絶好の鑑賞スポットのようです。
しかし、近年豪雨、台風の影響で中止が続いている。これも異常気象が原因でとても夏の天気も、春秋の様にころころ変わる強烈な牙の季節と季語も変わるのではないでしょうか。子供の頃の近所の連中で花火を持ち寄り、夜更かしをした、朝のラジオ体操から夜遅くまで、夏を楽しむ、絵日記の世界はもう描けないのかなあ。
東京五輪の新国立競技場が話題ですが、2016年の招致活動の時にメイン会場は晴海の展示場跡地にできる予定であったが、あの斬新なデザインの会場を建て替えで建設費を抑えるはずが、逆に高いものについてしまった。日本の役人らしい、見通しの悪い結果に、一儲け狙う、ハイエナが元首相に群がる構造が、一人ひょっとこ組織委員長は自分の役割がわかっていない。5年後のお笑い劇場になっては、世界に日本のお笑いは通じないでしょうね。10〜20年後責任が取れる30〜40代の組織委員長が必要だね。子供の頃の思い出をかき消すことがないように厳重注意。
ナカタニさんは、いつも黄色い首輪をつけたカピバラを連れて歩いている。私も、初めて見たときは人並みに驚いたが、驚いた私を見たカピバラが私よりもさらに驚いて興奮し、小学校の菜園を荒らしてしまうという事件があったので私はもう驚かないことにしている。少なくともそういった素振りは見せない。見せてはならない。カピバラが菜園を荒らしたとき、小学校はダメになった人参十四本をナカタニさんに弁償させた。私がそのことを夫に話すと、
「そういうものだ」
「カピバラがライオンやクマじゃなくて良かった」
と、つまらない感想を垂れる。私はナカタニさんに少しだけ同情する。ナカタニさんは誰とも友好関係を持っていなかった。
市が指定した水曜日に、私は不燃物をもってゴミ捨て場に行く。そこには珍しくナカタニサンがいた。ナカタニサンは必死にカピバラの背中を叩いている。
「どうされたんですか」
私が聞くと、ナカタニさんはカピバラの背中を叩きながら答えた。
「間違ってゴミを食べたみたいなんです」
よりによって今日は不燃物回収日だ。金属なんかを食べたのかもしれない。私はそう思い、私もカピバラの背中を叩くことにする。
「洗濯しないとだめだな、こりゃ」
ナカタニさんは、手を休めて、うんっと背伸びをしながら言った。私は、カピバラが洗濯できたなんて知らなかった。小学校でも大学でも習わなかった。
「カピバラって洗濯できるものなんですかね」
「そりゃ、種類にもよりますよ。見ていきますか?カピバラの洗濯。」
カピバラの洗濯とは初耳だ。もしかしたら、一生に一度の経験になるかもしれない。私は迷わずナカタニさんについていった。
ナカタニさんはおしゃれなワンルームマンションの八階に住んでいた。勿論、動物を飼ってもいいマンションだ。ナカタニさんは802号室を開け、私を招き入れた。なかなかいい部屋である。観葉植物なんかが置いてあるし、奥にあるワインクーラーにはぎっしりと高そうな洋酒が詰まっている。
ナカタニさんに連れられ、洗濯機の前へ。
「さ、あらいますよ」
ナカタニさんはひょいとカピバラを洗濯機に放り込み、正確な分量の洗剤を入れ、素早く蓋をした。そして、『すすぎ』のボタンを押して、『スタート』を押した。
十分後には新しいカピバラが出来上がるそうだ。外からクラクションの音が聞こえたので、窓から外を見ると、思いのほかいい景色だった。
病気明けには無性に誰かに逢いたくなる。もちろん、大病ではなかったが、俺は実家のある山間の景色を無性に見たくなった。母は中学のときに死んで、実家には親父が独りでいる。車でも良かったが、通学で使った押しボタンの開閉ドアの単線が懐かしくなって、新幹線から在来線に乗り換え一時間あまり、そこからその単線でまた一時間かけて帰省した。六年ぶりである。
山の中腹に開けた母の眠る先祖の墓へ挨拶を済ませる。初めての人なら怖いと思う風情の墓地。線香を供え、何となく墓石に刻まれた名前を順番に見ていると、そういえば腕のないおじさんがいたよなぁ、と幼少期に遊んでもらったその人のことを思い出した。いつ死んだのか。顔の記憶もない。ただ、片腕のなかったことだけは覚えている。
「なぁ、片腕のないおじさんいたよなぁ」
夕食後、親父に何となく聞いた。
「健治さんのことか」
親父は手酌でビールを注いだ。
「あの人、何で腕なかったんだっけ?」
「別に聞かなくてもいいはなしだから言わなかったんだがな」
空を見る目を細めた親父は、変な言い回しで記憶を辿るはなしを俺にはじめた。
「タタライ山には熊が出るわなぁ」
「腕が熊に食われたってのは本当だったのか」
「そうじゃない。タタライ山を守る仕事をしてたんだ」
「あそこって立入禁止の山だろ。あの人の土地だったのか」
「健治さん一族のな。戦争が終わって元々の土地から逃れてきた人間があの山に住み着いたのがはじまりだったそうだ。俺の親父、つまり、おまえのじいさんの世代は部落意識が今以上に強かった。だから、その人たちに食い物を渡さなかったんだな。山に入った健治さんのじいさんが発見したそうだよ。すぐ墓を作って、山は立入禁止にした。実際に見ていない健治さんは、守る仕事を受け継いでもそのはなしをあまり信じていなかったそうだ。それで、行っちゃいかんと言われていた頂の墓に、夜、供養がてら肝試しに行ったそうだ。そこでおぞましい光景を見て必死に逃げ帰ってな。そのとき腕をなくしたと言っていたよ」
「よくできた怪談だよな」
「健治さんが死んで守る者がいなくなってからこの土地では死人が増えてな。偉い坊さん呼んで供養してもらった。それからは平静を取り戻している。だけど、おまえには悪いことしちまったなぁ」
「何だよ俺に悪いことって?」
「母さんだけは守ってやりたかったよ」
和平条約締結との連絡を受けて、私達は領海に入った。締結が後ろ倒しとなり、私達は1週間以上海の上での待機を余儀なくされた。フィリピン沖には台風が発生したとの情報もあり、一時退避の判断をする瀬戸際だった。今回は送り届けられそうだという安堵感と共に、自分の故郷の姿が私の頭の中に浮かび上がってきた。
船の中にはブルドーザーや、食料品、医療用品など生活に欠かせない品々をぎっしりと積んだトラックが整然と並んでいる。そのトラックの1つに今回私が配布する品が入っている。それは、子供向けの本だ。教育が中断してしまった子供たちに配らなければならない。子供たちが文字を読むことが出来ないままというのは、彼らの人生の選択肢を狭めることになる。これは私の信念だ。人類の誰もが平和を望んでいるということはもう信じられないとしても、この信念だけは変わることはなかった。
トラックが降り始める。私のトラックは奥の方に入れてある。逸る自分の心を、生活必需品が優先されるのは当然のことだ、と納得させて順番を待った。ブルドーザーが道を作り、生活必需品を積んだトラックはロードマップに従って各々の目的地に向かっていく。
「いよいよですね」と私と同じ国出身の同僚が言った。
「そうね」と私はハンドルを握りながら答えた。
私達が目的地に到着した時、生活必需品を配り終えたトラックが次の目的地に向かうところだった。物資を積んだトラックを子供たちが痩せ細った体ながら懸命に追いかけていた。
その光景を眺めた同僚が、「ギブ・ミー・チョコレートの世界ですね」と言った。
私達も積み下ろしを始めると、人がトラックの前に長い行列を作り始めた。整然と並ぶ国民性は失われていないようだったが、その中身が本だと分かると、行列は即座に消えた。
私達は本を抱えてバラックを歩き回り、瓦礫で遊んでいる子供たちに本を配った。
子供たちは早速木陰で読み始めた。娯楽が少なかったのか。活字に飢えていたのか。私は胸いっぱいだった。
私は「大きくなったら何になりたい?」と問いかけた。
子供たちは、笑顔で答えた。
「生きていたい」と。
「大人になりたい」と。
次の目的地に向かう途中、「宇宙飛行士になりたいとかじゃないんですね」と助手席の同僚がポツリと言った。燃えながらも原形を留めた信号機が視界に入った。とっさに私はブレキーを踏んだ。それは若き日、踏むべきブレーキであった。
「なぁ、神様っていると思うか?」
「何だよ、いきなり?」
「いやさ、俺達って偉大なる父を見たことがないだろ? 本当にいるのかと思って」
「大天使ミカエル様は見たって」
「光だけだろ。神々しく輝く光と虹だけじゃあ、他の天使が影武者してても分かんないぞ」
「怖いこと言うなよ。大体、他の天使が父を偽装してどうするのさ」
「それは色々ある。一つは、まとめる為さ。俺たち、天使は自然発生したものだろ?」
「うん、いつの間にか、そこにいた」
「そうそう、いつの間にか。だから、俺達、天使は何もしなければ、そこらの竜やグリフォンと変わらない。個別にただ存在してるだけだよな」
「うん」
「でも、そこに共通の概念……というか、関わり、だな。があるとする。これが偉大なる父って訳だ。そうすると、同士よ! って天使同士でつるむ理由になるんだ」
「それは分かるけど……何で天使同士でつるまなきゃいけないのさ?」
「うーん? ……えーと、そうだ! これは、父を偽装する理由の一つでもあるけど、他の天使が権力とか武力を欲しいとするよな。そうすると、数がいる方がいい。それに、出来れば、命令出来る方がいい訳だ。天使が天使の上に立つと必ず権力争いになるからな。だから、偉大なる父がいて……」
「でも、それも誰かが権力とか武力を欲しがってる前提だろ? ミカエル様だって、ラファエル様だって、普段はお酒も飲まないおじいちゃんだよ? イメージ沸かないなぁ」
「……だよな」
「うん」
「じゃあ、やっぱり父はいるのかぁ」
「うん。……でもさ、僕も父がいるのかなって思う」
「何で?」
「だって、僕達は自然に生まれたし、大地や空は僕らが生まれる前からある。父が創ったっていうけど、その後は全部放置。世界に何の影響も与えてないんなら、本当にいるのか分かんないよ。いても認識されないのなら、いないと同じ……」
「……」
「なんてね。人間の受け売りだよ」
「……いないのと同じ」
「やっぱり、そこが気になる? 僕もそうなんだ。いないも同じ、否定の言葉だけど、肯定の言葉でもある。認識されたら、存在するんだもんね。神と認識されたら神になる訳だ! こういう場合、何をすれば神と認識されると思う?」
「そりゃ……人間を救うとか?」
「確かに! だとしたら、神は人間の中にいることになる! 僕達、一度も人間を救ったことなんてないんだから!」
どんな人間でもそれ相応のステージってもんがある。
お前にもきっとそれがあるだろう。どんなステージでもいい。
お前の持ってるもんを全力でぶつけられる何かがあればいいな
それが父の口癖だった。
普段から粗暴で酒飲みで適当でいい加減だったが
どこか芯の太い昔ながらの人だった。
俺が高校を卒業し田舎から都心に行くとき
父は何も言わず俺を抱きしめた。
ただそれだけで俺はこの人の子である事を感じた。
数ヶ月が過ぎなかなか定職につけず
ようやく就けた仕事は決して人様に言えるような立派な仕事ではなかった。
なんの為に生きているかわからなくなった。
生きる為に金を稼ぐ筈が金を稼ぐ為に生きていた。
親父は俺を見てただ笑った。
自分の農作業をしている手を見せお前の手は綺麗でよか と
仕事に貴賎などありはしないと
どんな仕事も世の為人の為にある と
生きてる意味なんて俺にもわからんのにお前みたいな若僧にわかるわけないと。
ただ豪快に笑った
少年よ大志を抱け
ぼーずあんびしゃす。
俺はそこで笑った。
それだけでこの人にはまだ勝てないとおもった。
帰るというと男は黙っていたが扉は開かれた。馬は鞍つきでそこにいて馬上の男が離れて待っていた。主からですと大きな原石をおいて男は去った。帰った父はまた出かけていき翌日には男と私の婚礼がおこなわれた。男は夜中にだけ、窓のない寝室にだけ現れた。息子の私に似ていない目が男を思い出させた。従者は屋敷のどこにでも現れたが夜になると呼んでも現れなかった。女たちによれば妻を得て近くに住んでいるようだった。本人に案内させると確かに女の手が入っていたが女の姿はなかった。妻帯していないと男はいった。そして夜がふけて男が現れた。私に似ていない目が私の目を見た。やがて男は原石とともに山に埋もれたが夜ふけの寝室には姿を現した。屋敷から男の住まいに移っても夜になると男は姿を消した。私の目をもつ息子はあいつは山に入って獣を撃っているのだといった。男をつけた男たちは獣など見えなかったといった。長男は朝陽に白く血を輝かせてこれが獣だと男の首をほうった。胴は見つからなかった。次男もやがて夜になると姿を消すようになった。私は獣は死んだのではないかと長男にたずねた。確かに殺したが夜がふけるとここへやってくると長男はいった。まじわりもせずに生まれた三男は死んだ二人の男のどちらにも似て私のどこにも似なかった。そして夜も昼もそばにいた。獣が消えてしまったと長男はいった。男は目を失った。次男は昼にも姿を現さなくなり、私は長男をつれて山に入った。男が原石とともに埋まったそこを掘っていた男は宝石をさがしているのだといった。獣を知らないかと長男はいった。知っている。おまえのいう獣が私の知る獣のことならば。長男の帰りを待つあいだ男はトランプの札を並べていた。長男が宝石を抱えて戻ると男はそのひとつを呑み込んで先に立った。男の腹が光り山の闇を払った。男がゆびさした。なにもいないと長男はいった。獣を見ることはできないと男はいった。私には次男がそこにいるように見えた。帰ろうと長男はいった。男たちは次男の胴を見つけてきた。首は見つからなかった。山をおりた男が審判を待つ長男を殺した。そして宝石と首をもっていってしまった。夜になると山が光った。男たちは男が埋まった穴が深く穿たれているのを見た。原石が掘り出された。三男のことを誰も、私もおぼえていなかった。私と結婚してほしいと男はいった。はいと私は言葉にした。四番目の子は授からなかった。
とある山間の村。長く村長を務め、いまは引退した伊藤某の許に、東京のテレビ局が訪れた。戦後七十年にあたってその間の日本政治を取り上げる特別番組の取材だそうだ。
「当時のことかね、よう覚えとるよ」伊藤老人はニコニコうなずいて取材班をよろこばせた。
ところが、何も話さない。思い出そうとしている様子はあるが口から何も出てこなかった。
「伊藤さんはお身体の具合が悪いのとちがいますか」
付き添っていた奥さんに取材班が尋ねた。
「なにねえ、どこも悪いところなんかありゃしません。ただお医者様は、アルツ何とかいうて脳ミソが小さくなっている言うてました」
取材班は早々に引き揚げた。山の細道を車が走ってゆく。大きな橋に差し掛かると案内をしていた地元の記者が云った。
「角栄橋というのだそうですよ、こう立派になる前は、風が吹くと危なくて急病人も渡せない吊橋だったそうです」
「それだよ、政治家が地元にカネをばらまいて票を買っていた、このごっつい橋もそうだろう。その当時の現場の証言がほしかったのだが、越山会の大番頭だった人だからと期待したんだが、しかし、ああ耄碌してちゃね」
急峻な山が四方から迫る村だった。冬になれば背丈を越える雪で閉ざされてしまう貧しい村だ。
「ほれ、あんたが田中先生にお願いして架けてもらった橋を、さっきの人たちが渡っていきなさる」
高いところにある家は見晴らしがよかった。
「覚えとる、よう覚えとる。あのころのことはな、うんうん」
伊藤老人は取材班にきかれたことを、まだ思い出そうとしているらしかった。
「覚えてなくていいんですよ、あんたがしなすったことはああやって人様のためになっているのだから」
気を付けて行きなされよと、奥さんは小さくなっていく車に手をふっていた。
伊豆です。朝です。晴れてます。もうすぐ東京へ帰るので、なんかセンチメンタル?連れて帰ろうか迷ってます。連れて帰れば東京でセックス三昧です。一方、真面目な親戚筋は当然怒るでしょう。お前それはいけないよ、気持ちはわかるけどやっちゃいけないことなんだよ、まああと5年もすればわかると思うよ。諭すように語るでしょう。俺もね、若いころにあったなあ、踊り子にメロメロになっちまってさ、もう少しで旅に出るところだったよ、旅に出たらまあセックス三昧だよね。でも寸でのところで踏みとどまったよ、止めてくれたのがお前の親父だよ。恩があるんだよ、俺はお前を止めなきゃなんねえ、でね、すでに連れて帰ってきてんだからさ、その辺はうまくやらないとね、踊り子のバックにとんでもないもんがいるかもしれない。たいていはね大丈夫、でも気をつけなきゃなんないよ、まずね、ええとすでにセックス三昧だよね、わかるよ、別に責めてないからね、俺だってそうなるよ、だから、その回数をねちょっとずつ減らそうね。1日に?10回?オーケー、将来楽しみだ、いっそね、それだけ相性がいいならね、突き進んでもいいと思う。俺、応援する。その相性の良さはね、日本の宝だよ。いきなさい。え?どこへってお前、どこってことはないけれど、あえて言うなら快楽の館へいきなさい。そう、熱海さ。親父?そんなもんは些細なことだ。俺がなんとかしてやるよ。説得する。宝を育てるのが俺たち大人の責任じゃない。宝はね、磨き上げることによってさらに輝きを増すんだよ。日本の宝が、世界の宝になりうるんだよ、イチロー方式だ。やがては宇宙の宝になるかもしれない。宇宙の宝を育てるのが、俺の夢なんだ。夢見させてくれよ、こんなおっさんに夢を、少女にパンケーキを。
今日は近くの神社の夏祭りだと知って、いっちゃんと出てきた。いっちゃんには、そんなのに興味があったんだ、って驚かれたけど、夏祭りって雰囲気が非日常的な感じで好きだ。
いつもは殆ど人のいない商店街に、今はどこから湧いてきたのかってくらい沢山の人が歩いている。遅い時間なのに女子高生じゃないかって集団とすれ違う。女の子達は浴衣を着ていて、手には綿菓子やリンゴ飴なんかを持っている。ワイワイとはしゃいでいる姿が、いつもはうるさいだけなのに、なんだか可愛いって思う。祭りマジックだろうか。
「今の子たち、ちょっと可愛かったね」って、いっちゃんに言ったら一瞬驚いた顔をしたけど、「浴衣ってだけでもなんか可愛いって思っちゃうけど、綿菓子とかリンゴ飴とか持ってたら余計にかわいく見えちゃうよね」と笑っていっちゃんが言った。
「いっちゃんもリンゴ飴とか持ったら、もっと可愛く見えるかも」ってオレが言ったら、いっちゃんが「いや、要らないから」って困ったような顔をして言った。
渋るいっちゃんに、それでもオレは赤い大きなリンゴ飴を買った。「はい」っていっちゃんに渡す。いっちゃんは、困った顔をして渋々それを受け取った。
人ごみから離れて、適当な縁石に腰を下ろす。遠巻きにたくさんの屋台と人を眺めた。
いっちゃんが手に持ったリンゴ飴をくるくる回す。その姿をチラッと見て、「やっぱり、いっちゃんも可愛いよ」ってオレが言ったら、「お祭りマジックだね」っていっちゃんが苦笑いした。
暫くして、いっちゃんが言った。
「ところでさ。リンゴ飴ってどうやって食べたら、きれいに食べきれるのか知ってる?」
「いや、わかんないけど、そのまま食べればいいんじゃない?」
何気なく言ったオレに「じゃ、どうぞ」って、いっちゃんが手に持ったリンゴ飴をオレに突き出した。その顔がすごく真剣だったから、オレはそれを受け取ってかぶりついた。
「カタッ!!」
そう言ったオレに、「でしょ」っていっちゃんが呆れた顔をした。
「零くんがかぶりつくにはいいかもしれないけど……」とチラッといっちゃんがオレを見る。
はぁ、って大きなため息をついて、いっちゃんはオレの歯形が付いたリンゴ飴を眺める。
「だから、要らないって言ったのに……」
そうならそうと、始めに言ってください、って思うのはオレのわがままか。
それとも、こんな有名な物の食べ方がわからないなんて思いもしなかったオレの問題か。