第155期 #8

春恋珈琲

腫れものに触るように俺を見るな。
ただ言いたいことはこれだけだった。

昨日、みんなの前でクラスの目立たない地味な子、相良彩に告白してしまった。

二月の中盤、寒い日だった。早く春が来ないかななんて考えながら高校に向かっていた。その日は何故か電車が遅延していた。寒い中ただ待つのも嫌だったので缶コーヒーを買って飲んでいた。電車を並んで待っていたらクラスメートもたくさん並んで待っていた。まあ特にクラスに友達がいるわけではないので挨拶だけだった。

そう思い一人並んで待っていると隣に相良さんが立っていた。なぜだろう、その日は不思議と勇気が湧いてきた。だから声をかけてしまったのだ。
「おはよう。寒いね。」
普段ならおはようだけで済ませてしまうのに一言付け足してしまったのだ。
「おはよう。ね、早く春にならないかな。何飲んでいるの?」
「コーヒーだよ。好き?」
「大好き。あれ?そのメーカー新しいコーヒー出したんだ。」
「らしいね。ちょっと飲む?」
「いいの、ありがとう。・・・・でも間接キスだよ。平気?」
「うん。平気。相良さんなら平気。」
「・・・それって、そういう意味?」
「え?」
後ろから声が聞こえた。
「朝から告白なんてすごいぞ。」
驚いた。特にそういった意味はなかったのだ。
「いや、特にそういった意味ではなくて。ただ間接とか気にしないよって意味なのですが。」
そう言った時、相良さんは顔を赤くして泣きそうになっていた。
「でも、前からあなたが好きでした。」
さっきまで騒がしかった駅が一気に静まり返った。相良さんは驚いた顔をしている。あれ、俺間違ったことをしてしまったのか。そんなことを考えていると急に恥ずかしくなってきた。気づいたときには駅を走っていた。家まで全速力で駆け抜けた。

そして今日である。流石に二日続けて学校を休むわけにはいかないので登校したがこれだ。別にすることがないので休み時間は寝たふりをしていた。
終業のチャイムが鳴った。逃げるように学校を出た。
そして、最寄り駅に着いた。これからずっとこんな生活を余儀なく送るのかと考えるとため息がでた。歩いていると後ろから相良さんが走ってきた。
「あの、今日休み時間ずっと寝てたでしょ。それならこれどうぞ。」
缶コーヒーを渡された。
「あ、昨日の返事はこれでいいかな。」
缶コーヒーを取り上げられて、開けられ、飲まれ、残りは渡された。
コーヒーは甘い恋の味がした。

そろそろ春が来たようだ。



Copyright © 2015 宮原 飛鳥 / 編集: 短編